いろいろ1ねん

友達と1年を楽しく、ときには支え合い過ごします。今年はどんな1年になるかな…?季節の移ろいと、友情の温かさを感じられる絵本です。
☆3つのおすすめポイント
- 双子のねずみと、木のウッディとの不思議な出会いの物語です。
- 切り絵と色鉛筆の描写が重なり、季節ごとの雰囲気や空気感がやわらかく表現されています。
- 1年という時間の流れ、自然の変化、すべてが未来につながっていくメッセージを感じます。
☆あらすじ
1年の始まる日、雪が深々と降り積もる1月1日に、双子のねずみの「ウィリー」と「ウィニー」は、生まれてはじめて雪の中を歩きました。
すると、ゆきねずみがほうきを持って立っています。ゆきだるまのねずみなので、しゃべるはずがありません。しかし、そのゆきねずみはしゃべりました。
「ほうきじゃないわ、わたしは、ウッディ、木よ!」
口をきいたのはゆきねずみではなく、なんと木でした。ふたりはびっくり。
2月になり、ふたりはまたウッディに会いに行きました。
「あなたたち どうしてたの」とウッディ。ふたりはウッディに、住んでいる場所や、一緒にいる雌牛や馬の話など、いろんな話をしました。
そして3月。天気が悪い中でも、ふたりはウッディに会いに行きます。もうすっかり3人は友達です。
そのうちに春になり、ウッディは花を咲かせ、夏が過ぎ秋になると、ウッディにはおいしそうな果物がいっぱい実りました。ふたりはお腹いっぱい食べました。
おいしい果実の季節のあとは、厳しい木枯らしが吹き付けます、双子のねずみは、ウッディが心配です。でもこれは、新しい季節への準備なのでした。
冬がきて、待ち遠しい春に向かいます。
☆際立った特徴
絵本の形が特徴的で、縦が29㎝、横が14㎝の縦長になっています。縦に長い木「ウッディ」と、その横で双子のねずみが肩車をしてウッディの果実をとっている、というイラストのバランスが絶妙な形の表紙です。葉っぱの緑と果実の赤の差し色、双子のねずみのふんわりとした、やわらかな体の雰囲気。
手にとってページをめくってみたくなるような、また、本を壁に飾って置きたくなるようなオシャレ感もあります。
絵本を開くとそこは冬景色です。3人が出会ったのは冬でした。そこから春、夏、秋と過ごし、そしてまた冬が来る。その1年の中には、いろんな天気の日があり、同じ日は1日としてありません。
穏やかな日もあれば、自然の厳しさを感じる日もあります。しかし、どんなときでも、想い合い、支え合う3人。
ウッディは木なのでその場から動けませんが、3人が出会った日から双子のねずみたちは毎月必ず会いに行き、素敵な友情が育まれていきます。
1年という時間の流れの中で、四季を感じ、過ごす楽しさを感じられます。そして、3人の穏やかな雰囲気、友情の温かさも伝わってきます。
☆書店員の感想
この絵本はオランダ出身のレオ・レオーニさんが描かれた絵本です。四季は日本独特の気候なのかなと思っていましたが、オランダにも日本と同じように四季があるのですね。その四季と自然の移ろいを感じて来られたレオ・レオーニさん。
一ヶ月ずつ季節が変わっていくようすを描かれていますが、その四季の美しさやすばらしさ、ときには厳しさがあるということを伝えたいという思いで、四季を通した絵本を作成されたのかな… と絵本を読んで感じました。
●双子のねずみと、ウッディの不思議な出会い
双子のねずみたちが、初めて雪の中を歩いた1月1日。ゆきねずみがほうきを抱えて立っているように見えましたが、ほうきではなく、それは「木」のウッディでした。
なんと、木が「ほうきじゃないわ、わたしは ウッディ、木よ!」としゃべりました。木がしゃべった!とふたりは耳を疑い、驚きました。
衝撃的な出会いでしたが、そのあとは特に不思議がることもなく、こわがることもなく、2月にまた二人は木に会いに行きます。前から友達だったかのように、自然と仲が深まっていきます。
ウッディは5月に花を咲かせてふたりを喜ばせ、7月にはふたりがウッディのピンチを救います。夏になり、8月にはウッディがぐっすり眠っていたから木に札をぶら下げました。木が眠るという発想に驚きましたが、よく眠って栄養を蓄えていたのかなとも思いました。また、札の字が読めるのだろうか…?とも心配しましたが、何事もなかったようで、きっと円満に伝わったのだろうな、と想像しました。お互いに思いやって、気遣いあっていますね。
秋にはウッディのおいしい果実でお腹いっぱいになったふたり。そして少しすると冬がどんどん迫ってきます…
ウッディは木なので動けないのですが、ねずみたちが会いに来てくれたので、楽しい1年だったことでしょう。クリスマスには、飾り付けをしたウッディと3人でお祝いをしました。肥やしや球根のプレゼントを持ってきたふたり。とても楽しそうです。来年の春がまた待ち遠しいですね。
四季を楽しみ、その季節の中でお互いに支え合って同じ季節を過ごし、大切な存在になっていきます。
この三人のように、お互いの違いも受け入れ、別け隔てなく友情を育める。当たり前のようで、意外と難しいことのように思います。双子のねずみたちとウッディを見習いたいと思いました。
●切り絵とちぎり絵、色鉛筆の描写で、柔らかく温かな雰囲気が伝わってきます。
お話は、ページを開くと右と左のページがつながって一つの絵になっており、ひと月ごとに進んでいきます。ページの右側に木が立っていて、そのまわりに2匹のねずみが登場しています。
木の幹や岩、葉っぱ、ねずみの手足は、濃いところと薄いところが細かく混在している模様の紙を使用し、切り絵で表されています。ねずみのからだは、手でちぎったような輪郭で、ねずみのふわっとした毛並みが表現されていて、どちらもそれぞれの質感が絵から感じられます。ウッディの木の実も、太陽の黄色と葉っぱの緑に映え、赤く美味しそうでした。
そして背景の雲や空、火、ホースの水、雪の日、太陽など、イラストのバックになるものは、すべて色鉛筆で描かれたような、ふんわりとしたタッチです。やわらかく、どの天気の日も、厳しい天気の日があっても、どことなく優しく温かく、木やねずみの絵がそれに引き立って見えます。
3人の穏やかな友情関係を、見守っているかのように感じました。
●1日1日が未来につながっている。自然の有り難さと厳しさ。人間も自然の一部だと感じます。
また、1月からお話は進んでいくのですが、木は寒さにも前向きに耐えます。3月に風雨に打たれて木がしなっても、もうすぐ迎える春を待ち望み、木のウッディは決して弱音を吐きません。秋、更にはまた厳しい寒さの冬がやってくる。足元の草も枯れてしまいました。それでもウッディは前向きです。
しかし、一度だけウッディが悲しそうなときがありました。それは6月でした。6月は好き。けれど、「人間」が原因でたくさんの木が山火事で死んでしまう。木は動けないから…。と悲しそうに話します。それを聞き、ねずみたちはホースを準備して、守ってあげます。
強い友情が、ウッディを山火事から救いました。
もしかしたら、ウッディだけでなく、いろんな動物や植物は人間と話ができないだけで、人間の行うことが原因で起こる災害などに、悲しい気持ちでいっぱいで過ごしているのかもしれません。そんなふうにも感じました。
穏やかな自然、生き物、植物。そして当たり前のように1年が過ぎていきますが、当たり前じゃない。1年の自然のようすを感じながら、お互いを受け入れ合い、思いやり合い、生活していく大切さを訴えているようです。


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