おおかみと七ひきのこやぎ
ドキドキするストーリー展開に子ども達は引き込まれていきます。大人も少し恐ろしさを感じます。半世紀にわたって多くの親子に愛されてきたミリオンセラー絵本
☆3つのおすすめポイント
- お母さんとの約束を守って留守番する子ヤギ達。しかし、子ヤギを狙うオオカミにお母さんの特徴のヒントを言ってしまいます。その通りに声を替え、足の色を変えるオオカミ・・・。
- 戸が開いたが最後、オオカミは子ヤギを一人残らず丸のみしようと探し回ります。気が付かれなかった小さな末の子ヤギ1人が助かったけれど・・・。お母さんヤギの大切な子ども達の命が奪われ、悲しみでいっぱいになります。
- 微かな望みの中、お母さんヤギはオオカミの腹をハサミで切ります。そして、お腹に詰められた石の重みで、オオカミは井戸に落ちて死んでしまいます。”オオカミが死んだ”事を大喜びするヤギたちという、衝撃的なエンディングは、リアリティーも感じるし、弱肉強食の世界で生きるヤギたちの残酷さや、生きていく逞しさも伝わってきます。
☆際立った特徴
グリム童話にスイスの作家フェリクス・ホフマンさんが絵をつけた『おおかみと七ひきのこやぎ』。日本では1967年に、瀬田貞二さんの訳で初版発行されています。半世紀にわたって多くの親子に愛されてきたミリオンセラーです。『おおかみと七ひきのこやぎ』は、様々な形で絵本化されていますが、本書の特徴は、お母さんヤギは二足歩行にエプロンで少し擬人化してはいるものの、ヤギやオオカミは四足歩行で手足や顔は本物と同じように描かれています。
そして、人間と共存して生活している世界のようです。人間も、力の弱い動物も、力の強いオオカミを恐れています。そして、誰からも嫌われ恐れられる”悪”の存在であることを、「獣」という言葉で表現している部分があります。それが、お母さんヤギがお腹をハサミで切るシーンです。子どもを奪われた母親の怒りが、特に感じ取れるように思います。
大人も怖い本だなと思ってしまうほどのストーリーは、最近の絵本ではなかなか出会えないかもしれません。昔話だからこそファンタジーの中にも感情的な部分があり、リアリティもある。そして怖さがあるからこそ、子ども達はどっぷりと絵本の世界に入り込み、ハラハラ・ドキドキとしながら楽しむことが出来るのではないでしょうか。
※本書で描かれる『おおかみと七ひきのこやぎ』の最後はオオカミの死を喜ぶという、エンディングです。出版社の福音館は【読んであげるなら4歳から】とオススメしています。
☆あらすじ
昔、ある所に子ヤギを7匹育てるお母さんヤギがいました。そのヤギは、どのお母さんにも負けないぐらい、子ども達を可愛がっていました。
ある日、お母さんヤギが食べ物を探しに森へ行こうとして、子ヤギたちを呼び集め、こう言いました。
「いいかい、私はこれから森へ出かけるからね。みんなはオオカミにくれぐれも気を付けて留守番するんだよ。あいつがうちに入り込んだが最後。お前たちはみんな食べられちまうからね。あいつはちょいちょい姿を替えてやってくる。でも、しわがれ声と足の黒いのに気を付ければ、大丈夫さ。お前たちでもすぐ分かるからね。」
そうして、お母さんヤギは子ども達を心配しながらも、出掛けていきました。すると間もなく、入口の戸を叩いてこう呼びかける者がありました。
トントントン。「お母さんですよ。食べ物を持って来たよ。開けておくれ。」
けれどもしわがれ声を聞いてオオカミだと分かった子ヤギたちは戸を開けませんでした。
ばれてしまったオオカミは村の雑貨屋に出掛けて、ハクボクを1本買うとそれを食べて声をきれいにしました。そして、再び子ヤギの元へ行き、戸を叩きます。
トントントン。「子ども達。開けておくれ、お母さんだよ。食べ物を持って来たよ。」
子ヤギたちは言いました。『声はお母さんみたいだけど…。それじゃぁのぞき窓から足を見せておくれよ!』
オオカミは、足を戸の隙間から出しました。子ども達は真っ黒な足を見てビックリ!そして口をそろえて、こう叫びました。
『開けるもんか!お母さんの足は真っ黒な足じゃないぞ!こんな足。お前はきっとオオカミだろ!!』
ばれてしまったオオカミは、パン屋に駆けつけてました。パン屋の店主に足をくじいたからと、ねり粉をべったりとぬってもらいました。そして、隣の粉屋に行き、ねり粉をつけてもらった足に白い粉を掛けるように言いました。
粉屋は、オオカミがまた誰かをだまそうとしていると思い、一度は断わりましたが、オオカミに「粉を掛けなきゃお前を代わりに食ってやるからな!!」と脅かされ、震えあがって、前足を白くしてやりました。
そして、再び子ヤギたちの家へ行くと、トントンと戸を叩き、美しい声で呼びかけました。そして、白くした前足をのぞき窓から子ヤギたちに見せました。
足が白いのを見て子ヤギたちは確かにお母さんだと思い込み、さっと戸を開けてしまいました。ところが、入ってきたのはオオカミでした。
子ヤギたちは隠れました。部屋中に隠れた子ヤギたちでしたが、オオカミは、たちまち見つけ出し次々にガブリッと飲み込みました。時計の箱に隠れていた一番末の子ヤギだけは、なんとか見つかりませんでした。
そしてオオカミは野原に出て木の下でそのまま眠ってしまいました。
間もなくしてお母さんヤギが家へ帰ると、家中が荒らされていて子ヤギたちの姿が一人もいない光景を見てしまいました。次々に名前を呼びますが、返事がありません。最後に末の子ヤギの名前を呼ぶと返事がありました。その子ヤギから一部始終を聞いたお母さんヤギはどんなに泣いたかわかりません。
それでもやっとお母さんヤギは、なくなく外へ出ました。すると、野原で木の枝が震えるほど大きないびきをかいているオオカミが寝ていました。お母さんヤギは、オオカミをあちこちから眺めて、膨れたお腹の中にもくもく動くものがあると気づきました。
もしかしたら、オオカミのお腹の中で子ヤギたちが生きているかもしれない!と考えました。そこで、末の子ヤギに家からハサミと針を持ってこさせ、お母さんヤギはこのオオカミのお腹をハサミで切り開きました。オオカミが丸飲み込だおかげで、子ヤギたちは全員怪我なく生きていました。
そして、子ども達に小川に行って石をもって来させ、ばれないように、寝てい隙にオオカミのお腹の中に石を詰めておきましょうと、集めた石をオオカミのお腹の中へ詰め、針でお腹を縫い合わせました。
あまりの手早さに、オオカミは全く気がつかず、グッスリ眠ったままです。
さて、オオカミはやっと目を覚ましましたが、なんだかひどくのどが渇きます。そこで、水を飲みに行きました。お腹の中で石がぶつかり合いゴロゴロ鳴っています。そしてオオカミは、水を飲もうとかがんだ途端、石の重みに引っ張られて、どぶん!!と井戸に落ちてしまいました。そのままオオカミは溺れてしまいました。
7匹の子ヤギたちはそれを見るなり、おおかみが死んだぞ!ヤッター!と叫び、喜びのあまり、井戸の周りを踊りました。
☆書店員の感想
お母さんとの約束を守って留守番する子ヤギ達。しかし、子ヤギを狙うオオカミにお母さんの特徴のヒントを言ってしまいます。その通りに声を替え、足の色を変えるオオカミ・・・。戸が開いたが最後、オオカミは子ヤギを一人残らず丸のみしようと探し回ります。気が付かれなかった小さな末の子ヤギ1人が助かったけれど・・・。お母さんヤギの大切な子ども達の命が奪われ、悲しみでいっぱいになります。
なんて、素直な子ども達なのでしょう。本人たちが気が付かない間に、オオカミに「お母さんの声はしわがれ声じゃないぞ!」「お母さんの足は白いぞ!」と教えてしまいます。それを聞いたオオカミは、しめしめと、キレイな声を出すための”白墨”(チョーク)を手に入れて飲み、白い足にするためにパン屋と粉屋へ行って脅すように店主にいう事を聞かせるのです。なんと恐ろしい世界なんでしょうか。人間を脅すようなオオカミがもし町中にいたとしたら・・・。私は恐ろしい気持ちになって読んでいました。
そして、子ども達を上手く騙したオオカミは、家の中に入ることに成功しました。
オオカミにしたら、かなり手こずったミッションだったのかもしれません。「なんとしても全員食べてやる!!どこ行った!!!」といった気迫まで感じさせるシーンです。次々に見つけては、がぶり!と飲み込んでいくオオカミ。絶対絶命。
そして、何とか見つからずに生き残った末っ子の子ヤギは、お母さんに起こった全てを話しました。話を聞いてさらに悲しくて泣いて・・・立ち直れないほどの悲しみだったことが予想できます。
オオカミのお腹の中に動くものが!もしかしたら子ども達が生きているかもしれない。微かな望みの中、お母さんヤギはオオカミの腹をハサミで切ります。そして、代わりに石を詰めるのでした。
何とか外に出たお母さんヤギは、お腹を大きくさせて眠るオオカミを見つけました。憎しみで一杯だったことでしょう。しかし、お母さんは子ヤギから「ガブリ!』」と丸のみしていたことを聞いていました。もしかしたら、お腹の中で生きているかもしれない!とわずかな望みがあったのでしょう!じっくりと眺めていると、お腹の中が動いています。もしかしたら、本当に生きているかもしれない!早く助け出してあげたい!!
そして、大きなハサミで子ども達を傷つけないように、お腹を切っていきます。ぽん!ぽん!と飛び出す我が子にお母さんヤギは喜んだことでしょうね!しかし、このままお腹を閉じては、お腹が空になったオオカミが、また子ヤギたちを狙って来るかもしれない。どうしたものか・・・。
そして、名案を思いつきます。石を詰め込んでお腹を膨らませた状態にしておくのです。
目を覚ましても、その事に気が付かないオオカミは、水をくもうとして、石の重みでバランスを崩し、井戸の中に落ちていきました。そして、みんなで喜ぶのです。
オオカミ死んだ!オオカミ死んだ!!
井戸の周りで踊ってしまうくらいに嬉しいのです。そして、その夜子ども達は安心してベッドで眠ります。お母さんヤギに見守られながら。もう大丈夫、子ヤギを襲う者はいないのです。
”オオカミが死んだ”事を大喜びするヤギたちという、衝撃的なエンディングは、リアリティーも感じるし、弱肉強食の世界で生きるヤギたちの残酷さや、生きていく逞しさも伝わってきます。
本書は、ヤギやオオカミは二足歩行で描かれています。そして、人間とも共存していて互いに会話もできるようです。この世界では、オオカミは力もあって、ずるがしこくて、とても恐れられている存在という事が、伝わってきます。オオカミを恐れて、人間がオオカミの言いなりになっている場面も描かれているのですが、なんともリアルティさがあって、実際に昔あった話なのでは!?と思ってしまう程です。
そんな中、オオカミに食べられた我が子を救い出す為に、お母さんヤギが寝ているオオカミのお腹をハサミでジョキッ!ジョキッ!と大きく切り裂きます。そして助けられた子ヤギたちと協力して、大きな石をオオカミのお腹の中に入れて縫い合わせるのです。それに気がつかないオオカミは、水を飲みに歩いた時に、お腹の重みで体重を持って行かれ、井戸に落ちて死んでしまいます。
やはり命あるものが、事故で亡くなってしまうという事は、どんな悪の存在であっても、可哀そうと感じてしまう物かなと思うのですが、本書のヤギたちはオオカミに対して1ミリも同情しません。逆に全身で「やったー!オオカミが死んだぞー!」と喜びを表現します。
同情してもらえない程、オオカミは悪の存在だったのかという事と、自分たちの身を守るためにはオオカミいは死んでほしい。いなくなって欲しいと強く思っていたことが、よく分かるのではないでしょうか。
そして、この絵本を読んだ読者の子ども達は、ヤギの味方になって、オオカミが死んでいなくなった事を「やったー!」と喜ぶことでしょう。でもね・・・
【本当に良かったのかな?オオカミは死んでしまったけど、ヤッター!って喜んでいいのかな?】
・・・きっと、このヤギたちの残酷さも、また弱肉強食の世界では必要なことなのでしょうが、いつかお子さんがこのお話を深く理解できるようになった頃、ゆっくり話し合ってもいいのかもしれませんね。
私は、この残酷さこそが、他の絵本に無い点だと思いました。新しく作られた物語に、こんなに衝撃的なエンディングを迎えるストーリーが他にあるのかな・・・と思ってしまう程。
- 作品名:おおかみと七ひきのこやぎ
- 著者名:絵 フェリックス・ホフマン 訳 せたていじ
- 出版社:福音館書店