おばあさんとトラ
動物好きの子にピッタリ!おばあさんとトラの異色の組み合わせ。二人の友情と互いを思いやる愛情を感じる作品★
☆際立った特徴
- おばあさんとトラの友情を描いている。
- オランダ生まれの絵本。
- 縦長の絵本。高さだけでなく奥行きも広く感じる。
- 異色の組み合わせ。おばあさんとトラの出会いと別れ方。
- 水彩絵の具と、貼り絵と切り絵の組み合わせ。自然の美しさ。日本ではない外国の風景の美しさ。
☆読み聞かせのポイント
- 動物園で見た事があるトラ。あんな怖い動物と、ヨセフィーンおばあさんみたいにお友達になれたらどうかな?どうして友達になれたんだろう?
- どうして雪の森にトラは、たった一頭でいたんだろう?どうしておばあさんと出会ったんだろう。運命的な出会いの訳を、自分なりに想像してみても楽しい。
- 別れのシーン、どうしておばあさんは振り向かずに立ち去ったのかな?サングラスをしている訳。
- 子猫に「トラ」と名づけたのはなぜ・・?
- ページ数は54枚。絵が大きくて文章は少なめ。だいたい各ページ2行ほど。
☆あらすじ
ヨセフィーンおばあさんは散歩が大好き。今日も森に散歩に出かけます。
雪の積もる森は静かで、おばあさんの歩くキシキシという音だけが聞こえます。
しかし、森にはトラがいました。おばあさんは、トラが近づいてきたことに全く気がつきませんでした。トラを見たおばあさんは驚きましたが、トラはおばあさんの匂いを嗅いで頭をこすりつけてきました。トラは喉をゴロゴロゴロ…と鳴らします。
このトラ、一体どこから来たのでしょう?
おばあさんは、トラに「うちに来るかい?」と聞きました。
おばあさんの家に来たトラは、ご飯をもらい、おばあさんのベッドの下で眠りました。
朝になり、おばあさんが足を下ろそうとすると、「まあなんて温かい」
トラに触ると、とっても温かくて気持ちがいいのでした。
おばあさんは買い物へ行くにも、どこへ行くのもトラを連れて回りました。
町の人々も最初は驚きましたが、怖くないと知ると、トラにだんだん慣れていきました。
ある時は絵描きに頼まれてモデルになったり、ある時は学校へ行き、子ども達の授業に出たり、子ども達を背中に乗せてあげることもありました。
ところがある晩、トラの喉を鳴らすゴロゴロ…という音が聞こえませんでした。体のしま模様も薄くなっているように見えます。すぐに町一番の獣医に来てもらいました。
「これはホームシック。遠い南のくにへ帰りたがっているのだろう。」
おばあさんは遠い南の国へ行く船の切符を買いました。自分は往復切符。トラには片道切符を…。
船が南に進むにつれ、だんだんトラは喉をゴロゴロゴロ…と鳴らすようになりました。
「あれがあんたの故郷かい?ずっと帰りたかったんだね。」
船から降りた二人は、自転車タクシーに乗りジャングルに向かい、ジャングルでトラとおばあさんは別れました。
帰りの道は途方もなく、遠く感じました。
おばあさんはそれからもずっと、トラの事ばかり考えていました。
ある日、路地裏で小さな猫を見つけました。どうやらノラネコのようです。
おばあさんは子猫を家に連れて帰りました。
次の朝、子猫が喉を小さくゴロゴロゴロ・・・と鳴らす音で目を覚ましました。
「私の名前はヨセフィーン。うちの子になるかい?あんたの名前は・・・”トラ”ね」。
☆書店員の感想
●まさかの組み合わせ。トラとおばあさんの出会い。どんどん他の人間とも仲良くなっていく所が、なんだか楽しくて嬉しい。
雪が積もる森を歩いていたら、トラに出会ったおばあさん。これは本当なら死を覚悟する場面ですよね。しかし、トラはおばあさんに寄っていき、頭をこすりつけてくる…という驚きの展開に。このトラは人間にもともと慣れているように思えますね。
もしかしたら、どこかの宮殿で飼われていたトラが逃げてきたのでしょうか?サーカスで飼われていたトラでしょうか?
まさかトラに出会うとは思いもしなかったおばあさんでしたが、自分になつき離れようとしないトラを連れて帰ることにしました。だって外は寒いですから。
家に着き、エサを与え、夜同じ部屋で眠った二人でしたが、朝目覚めたおばあさんが足を下ろそうとした時、トラの体に触れました。そして、「温かい」と感じたのです。
私は、実はこの「温かい感触」がこのお話のキーポイントの1つだと思いました。
どうやらおばあさんの家の様子を見ると、旦那さんに先立たれて1人暮らし。誰かが側にいてくれる幸せや誰かに触れて温かいという事をずっと感じていなかったのではないかと思いました。
そんな時にトラに出会いトラに触れることで”生きている物”の温かさを感じ、側に誰かがいてくれる喜びや幸せを再び感じる事ができたのではないかと思いました。
●外に出かける時も、トラを連れて歩くおばあさん。なぜだと思います?
誰かが「トラがいます!」と通報すれば連れていかれるかもしれない。でも、町のみんなに認めてもらえれば、ずっと側で暮らせるかもしれないとおばあさんは考えたのではないかと思いました。
怖がらせたいからではなく、こんなに人懐っこいトラなら、みんなに愛される存在になると思ったのでしょう。おばあさんの考え通り、町のみんなから愛され、必要とされる存在になったトラ。安心しておばあさんとトラはこれからも一緒に暮らし続けることが出来るという環境になったわけです。
●おばあさんとトラの船旅と別れ
体調を崩したトラ。獣医に「遠い南の島の故郷に帰りたがっている」と言われました。おばあさんはトラが心配であると同時に、サヨナラの時が近づいている事を感じた事でしょう。
「トラとは別れなくてはいけない。もう二度と会えないだろう。」
きっと別れは寂しいはずなのに、そんなおばあさんの弱い部分を本書では描いていないのが、本書の素晴らしい部分であり、切なく思える部分でもあります。
南の国へ行く船の切符を買ったと書かれた文章には、「船の切符を買いました。自分は往復切符。トラには片道切符を。」とあります。おばあさんの覚悟がここにはっきりと現れていますね。さらに強い覚悟を感じるのが、ジャングルのシーンです。サヨナラと言葉をきっと交わしたのでしょうが、その後、おばあさんは全く振り向かず歩き去るのです。サングラスをつけて。(もしかして寂しさで泣いていたのかも…なんて私は見てしまいました。)
大切な友達・愛するトラだからこその決断だったと思います。トラの気持ちを最優先した結末に、私は、とても切なくて、おばあさんの心の強さを感じました。
作者が決しておばあさんの弱い一面を描かなかったのは、読者が自然と気持ちを感じ取れるからなのかもしれません。
●愛する人(ご主人とトラ)を失うのはこれで2度目。まさに葬式のように真っ暗闇に1人ぼっち
そんな気分を描いているページが、ジャングルの次のページ(町に戻ったおばあさんが歩いているページ)に描かれています。町を行き交う全ての人々の服装や傘が黒や灰色なんです。おばあさんの心そのもの・・・という感じがするので、ぜひチェックしてみてください。
●新たな出会いと、おばあさんの部屋の変化
それからしばらく経った頃。ある日子猫と出会いました。飼い猫ではないようです。おばあさんは家に連れて帰ってあげました。
そして、子猫が喉をゴロゴロゴロ…と鳴らす音を聞いて、そのネコに「トラ」と名づけ、この話が終わります。
もしかしてゴロゴロと喉を鳴らす子猫を見て、トラを思い出し、そんな分けないと分かりながらも、もしかしてトラがネコに化けて会いに来てくれたのかも。と思ったのかもしれませんね。
ベッドの上で、子猫に話しかける可愛らしいヨセフィーンおばあさん。その部屋の壁にはトラの絵が飾られ、テーブルにはご主人の写真とメガネに可愛らしいお花が供えられています。実はトラが最初におばあさんの家に来た時と、部屋の様子が違います。模様替えをしています。
部屋の様子と子猫を優しく見つめるヨセフィーンおばあさんの様子から読み取れる感情は、『愛する人はいつも心の中にいて、今度はこの子猫が隣にいてくれる…』だと思います。
きっとおばあさんには、これからは、もっと素敵で楽しい毎日が始まる事でしょう。私はそんな想像し、幸福な毎日が訪れるのを期待したくなるラストシーンでした。
- 作品名:おばあさんとトラ Tijger
- 著者名:作 ヤン・ユッテ(紹介) 訳 西村由美
- 出版社:徳間書店