ともだちや
キツネが「ともだちや」を始めました!友達ってなぁに?売れるのかな?友達を買ってくれる人はいるのかな?キツネとほかの動物たちとのやりとり、そして最後に大切な「ともだち」と出会うストーリー。これから友達の輪を広げていくお子さんみんなにピッタリ!です。
☆3つのおすすめポイント
- キツネが始めた「ともだちや」。買ってくれる人はいるのかな?買ってもらったキツネの気持ちは…?展開がどうなっていくのか、気になります!
- オオカミとの雰囲気がだんだんと素敵な感じになっていきます。友達ってなんだろう。「本当の友達」って、なんでしょう。
- もしかして一番友達が欲しかったのは…。ともだちやを始めたキツネでしたが、面白いストーリー展開の中に、考えさせられる一面もあるお話です。
☆際立った特徴
キツネとオオカミの友達シリーズの1冊目で、友達になったきっかけが描かれた絵本です。
キツネのひょんな思いつきからオオカミと友達になるまでが描かれていますが、キツネもまた、友達とはなにか、を少しづつ知っていく、じんわりと温かいお話です。
絵の迫力もあり、動物たちとのやりとりの展開も楽しく進んでいきます。
絵本の大きさは25㎝×21㎝の少し縦型の長方形となっています。小さい子から小学生くらいのお子さんも、月齢によって感じることは様々で長く楽しめる作品です。

☆書店員の感想
●キツネが始めた「ともだちや」。買ってくれる人はいるのかな?買ってもらったキツネの気持ちは…?展開がどうなっていくのか、気になります!
キツネが始めた「ともだちや」、うたい文句に「友達はいりませんか、寂しい人はいませんか」、とあります。だれか寂しい人はいるのでしょうか。
はじめはウズラのお母さんに「静かにして」と注意されてしまいます。森にはいろんな動物がいるのですね。キツネも申し訳なさそうに口を押さえています。
葉っぱをお布団にして眠っているウズラの赤ちゃんたちが可愛らしいです。
小さい声で宣伝して歩いていると、クマに声をかけられたキツネ。大きな、本物のような迫力で爪も鋭いクマですが、着ている服は白地に赤い小花柄。お部屋には木彫りのクマや、天使の羽がついたクマの置物など可愛いインテリアで、ギャップがあります。
しかし、やはりクマ。イチゴを食べているキツネに「まずい」とは言わせない圧力を感じさせ、キツネも圧倒されています。「ともだちや」としてお代をもらう立場としては、相手に嫌な気持ちにさせてはならない、合わせなきゃ…という思いがあるのでしょうか。お腹がしくしくしてきますが、必死に対応するキツネでした。
200円をもらいますが、あまり嬉しそうではないキツネにちょっと切ない気持ちも感じてきます。
そしてとぼとぼと歩いていると、オオカミがキツネに声をかけました。
オオカミに「トランプの相手をしろ」と言われたときは、「へぇ…」と乗り気ではないような返事でしたが、トランプを一緒にしていくうちに、キツネもオオカミもだんだん楽しくなってきたような、そんなようすを感じます。
●オオカミとの雰囲気がだんだんと素敵な感じになっていきます。友達ってなんだろう。「本当の友達」って、なんでしょう。
トランプに勝っても負けても、どちらも楽しい。キツネが勝ったときに「ガーン!!」という表情で全身で悔しがっているオオカミですが、つぎにまた対戦し、勝ったのかテーブルの上に立って得意げな顔をしているオオカミのようすが描かれています。キツネも残念そうな仕草で、テーブルゲームを楽しむという共通の楽しい時間を過ごし、二人の距離はぐっと近づいたように感じました。
今回は、クマのときのように強制でもなんでもなく、純粋にゲームを楽しんでいる二人。
なぜならオオカミは始めから、「ともだちや」は呼んでいなかった。一緒に楽しく過ごせる相手を求めていたんですね。
「友達からお金をとるのか!」と怒られたキツネ。
「本当の友達」と聞いて、きょとんとしているキツネは、「友達」という言葉は知っていたけれど、「本当の友達」については知らなかった。オオカミに教えてもらったのですね。
そして、オオカミはキツネに一番の宝物のミニカーをあげました。それはきっと、「本当の友達」の証なのでしょう。素敵な友情が芽生えた瞬間のように感じました。なんだか心が温かくなります。二人とも、優しく良い表情をしていますね。
友達にお金なんていらない、お金が必要とする友情は本物ではない、ということを知ったキツネは、またひとつ成長したように感じました。嬉しそうにスキップしながら帰っていくキツネ。もう「ともだちや」ののぼりも必要ありませんね。その姿を見て、ほのぼのとしました。
●もしかして一番友達が欲しかったのは…。ともだちやを始めたキツネでしたが、面白いストーリー展開の中に、考えさせられる一面もあるお話です。
最初と最後に出てくるミミズク。森の動物たちのようすを見ているのでしょうか。
キツネのことも聞き耳を立てていたようで、「森一番のさびしんぼう」とあります。キツネのことか、はたまたオオカミのことかもしれませんが、キツネはもしかしたら自分自身が寂しくて、誰かと一緒にいたくて「ともだちや」を始めたのかもしれませんね。
キツネは提灯を二つ持ち、青い浮き輪を腰につけ、赤いヘルメットのような帽子にサングラス、さらに頭にのぼりを立てて、陽気な格好で宣伝しています。
降谷ななさんのインタビューに書かれていますが、一見ひょうきんなようで、キツネの小さいハートの裏返しでもあるようです。小心者のキツネが、清水の舞台から飛び降りる決死の覚悟で友達を作ろうと「ともだちや」を始め、どんな友達でも対応できるように装備したところ、このような格好になったそうです。浮き輪は水の生き物でも大丈夫なように、ヘルメットはバシバシたたかれても大丈夫なように…。どうしたら友達ができるのかわからないキツネなりの苦肉の策だったようです。陽気な格好をしていないと、シャイなキツネは「ともだちや」ができなかったんですね。
そして、「ともだちや」を思いついたけれど、お金を必要とする関係って、その時間が済んでしまうともう「ともだち」ではなくなってしまいます。「本当の友達」を知ったキツネは、もうお金のことなどすっかり考えることはなく、ウキウキして帰っていきました。勇気を振り絞ってよかったですね。
明日も明後日も会えるのが楽しみ。次は何をして一緒に遊ぼうかな、何をしたら喜んでくれるかな…。オオカミもミニカーをあげるときに、ジュースとパンでキツネをもてなしていますね。決して強くはすすめず…。そんな風に思い合える友達ができるって、嬉しいことですね。
子どもが「今日は○○ちゃんと遊んだ!」等、帰ってきてから教えてくれます。その友達と遊んでいる姿って実際にはほとんど見る機会が今はなく、子どもから聞くだけなのですが、とっても楽しそうに生き生きと話してくれます。
人間関係は実際に本人が経験して培っていくものなのかな、と思います。手助けするのは簡単だけれども、いろんな人がいるということを知っていくのも自分次第。キツネも「ともだちや」を始めて、いろんな動物に出会いましたね。いろんな人と出会って、どんな人と付き合っていくか。難しい場面も出てくるときもあるかもしれませんが、何があっても子どもの話に温かく耳を傾けてあげたいと感じました。
もしかしたら、ミミズクもそういう存在なのかもしれません。
小さいお子さんも純粋にお話を楽しめますし、小学生前後くらいの少し大きくなったお子さんにも、読むと別の角度から感じることがあるかもしれないと思いました。13巻まであるシリーズで、長く楽しめる絵本だと思います。
