むしむしでんしゃ
いもむし電車の乗客は虫や動物、おとぎ話の主人公達などさまざま!電車好き・妖怪好き・探し絵など発見が大好きな子にピッタリ!ミラクルファンタジーな世界です。
☆3つのおすすめポイント
- いもむし電車のお客さんは、虫や動物、おとぎ話のキャラクターなど様々です。それぞれの出会いと別れなどが行き交う停車駅のホームでは、旅立ちや帰りを喜ぶ者もいれば、悲しくて泣いて別れる者もいます。
- いもむし電車からの風景にも楽しい工夫があります。今と昔と、妖怪の世界とミックスされています。子どもには見えて大人は気が付いていないのか・・・?畑や柳の木の中に隠し絵や文字があり、それを見つける楽しさも!
- いもむし電車は、終点で乗客を降ろすとサナギとなりました。そして立派な蝶となり大空へ飛び立ちます。最後の乗客はあなたです。読者が大空を飛ぶ蝶の背中に乗せてもらっているようなアングルで描かれています。素晴らしい景色の中を一緒に飛びます。
☆あらすじ
「まもなく いもむしでんしゃは 発車します!」
ここは、【はたけ駅】です。大きないもむしの電車には金太郎とクマ、浦島太郎とカメ、大人の男性やカブトムシの親子、カマキリなど、たくさんのお客さんが、乗車しました。
さあ、出発です。ののたん ののたん ののたん ののたん・・・
いもむし電車は田んぼ道を進み、お花畑を超えて、スピードを上げて走っていきます。
【おいけ駅】に到着です。
「おいけー おいけー カエルさん達は、お早くお降り下さい!」
アナウンスが鳴ると、一斉にカエルやヤゴ、ゲンゴロウ、浦島太郎とカメのお客さんが降りました。駅のホームには出迎えの虫達。浦島太郎とカメは、ここでお別れなのか、挨拶を交わしています。
発車します。ののたん ののたん ののたん ののたん・・・
いもむし電車は小学校の横を通りました。子ども達が電車に向かって手を振っています。
そしていもむし電車は川の上の鉄橋を渡ります。
大きく穏やかな川には、着物姿の女性とお侍さんがゆったりとお酒を飲みながら川下りを楽しんでいます。そして、カッパが崖の上でキュウリをパクパク食べて川の景色を眺めたり、川の横の広場ではカブトムシと人間のおじさんが将棋を楽しんでいます。
「さとやまーさとやまーしばらく停車します!」
電車が停車したのは【さとやま駅】です。
この駅で下車したのは、金太郎やハチ、クワガタ、カマキリの子ども達。そして乗車するヘビやムカデもいます。金太郎のお供のクマとはここでお別れです。
発車します。ののたん ののたん ののたん ののたん・・・
雨の中静かにのんびりと進んでいく、いもむし電車。次第に夜になり、辺りが暗くなると、空には魔女がほうきに乗って月へお散歩。いもむし電車のライトに引き寄せられて集まってくるのは、生きた昆虫だけでなく、昆虫や動物のおばけ達。
朝になり、【よわむし駅】へ到着です。
「よわむしーよわむしー。なきむし よわむし でんでんむしは、お降りください!」
いもむし電車から降りる者は、みなシクシクと泣いています。ホームには”ニコニコ笑顔のお面”を売る売り子が、泣いている者達に売ろうとしています。商売上手!!
発車します。ののたん ののたん ののたん ののたん・・・。
キャベツ畑を超えて、スイカ畑を超えて、【花畑駅】へ到着しました。
「はなばたけーはなばたけー どなたも お降りください!」
いもむし電車の最終駅でした。乗客のハチやちょうちょ達はみな電車から下車し、花畑の中へ飛んでいきました。
『いもむし電車、お疲れ様!!』おじさんがいもむし電車にスイカを食べさせてあげています。仕事を終えたいもむしは、ほっとした表情です。
すると、いもむし電車はピンクのベールの中で、すやすやすや・・・と眠っています。どうやらサナギになったようです。そして・・・
サナギの中から出てきた蝶は大空へと飛び立ちました。タヌキのお客さんを乗せています。
「次は、あおぞらーあおぞらー。」いもむし電車は、チョウになり、どこまでも飛んでいきました。
☆際立った特徴
「ののたん ののたん・・・」なんだかノンビリとした電車音のいもむし電車は、【はたけ駅】から出発し、虫や動物、おばけや人を乗せていきます。行き先は【花畑駅】です。
途中にいくつかの駅で停車しますが、駅で行き交う乗客達にはそれぞれ待っている者がいたり、お別れをする者がいたりと様々なストーリーを感じます。虫や動物以外にもおとぎ話の主人公や泣き虫弱虫の侍がいたり。景色の中には魔女やおばけもいたりして、とにかく謎がいっぱいなミラクルファンタジーな絵本です。
「どうしてこうなった?」「どこからこの人は乗ったのかな?」と、見返していくと、はっきりと答えが分かることもあれば、謎めいた事も多く、自分なりに考えて見返してと繰り返します。すると、どんどん本書のファンタジーな世界にはまっていくことでしょう!
●19.1cm×26.6cmの横長の絵の中を隅々まで細かく見てみると、様々な発見があります。
●姉妹本の『たたたん たたたん』『がたごとがたごと』『むしむしでんしゃ』の中には、共通して登場するキャラクターもあり、合わせて読むことで、更に楽しい発見があります。
参考文献)講談社ホームページ・インタビュー『たたたん たたたん』内田麟太郎さん&西村繁男さん
KUMONがうた・読み聞かせを応援[ミーテ] 西村茂男さんインタビュー「親子一緒に絵本の中で楽しんでもらいたい」
☆書店員の感想
いもむし電車のお客さんは、虫や動物、おとぎ話のキャラクターなど様々です。それぞれの出会いと別れなどが行き交う停車駅のホームでは、喜ぶ者もいれば泣いて別れる者もいます。
まず、はたけ駅で乗車したのは、おとぎ話の浦島太郎や金太郎、そしてカマキリやカブトムシ、のちに泣き虫と分かるのですが強そうな侍さん、そして、キリギリスやバッタのオーケストラなど、様々です。
その中で、カブトムシに注目すると、なんと窓からお父さんカブトムシがお母さんカブトムシに窓越しに子ども達を手渡ししています。ドアから子ども3匹を乗せるより、窓からの方が都合が良かったのでしょうか?お父さんカブトムシは乗車しません。ちょっぴり寂しい別れの瞬間です。何日も電車の中で過ごした赤ちゃんたちは成虫となっていて、【さとやま駅】で、下車します。立派に成長した彼らは、元気よく電車から飛び立ちました。
浦島太郎も、【はたけ駅】で乗車しましたが、次の【おいけ駅】で下車しました。一緒に乗ったカメとはここでお別れです。私達の想像では、カメは海に帰って行くのでは??と思う所ではありますが、下車した場所は【お池】。きっと大きな池なので、そのまま海まで続いているのかもしれません。『お世話になりました!』とカメはお辞儀して、「達者で暮らせよ!」と浦島太郎は手を振っています。
乗車する者1人ずつにピックアップしていくと全てに背景が見えて、話している言葉や感情まで想像できるます。読者によって感じ方はそれぞれなので、親子や兄弟で一緒に読みながら、発見を話し合うと、見落としていた事に気が付いて、もっと楽しめると思います。
いもむし電車からの風景にも楽しい工夫があります。今と昔と、妖怪の世界とミックスされています。子どもには見えて大人は気が付いていないのか・・・?畑や柳の木の中に隠し絵や文字があり、それを見つける楽しさも!
本書の世界は、遠くに高層ビルが見える景色があると思ったら、大正・昭和を感じる山奥の分校もあり、かやぶき屋根の横は3階建てのマンションだったりした、これは一体どんな世界でいつの時代なのかな??と思わせます。そして、もんぺや下駄の人もいれば、可愛いワンピースの少女も、侍や着物姿の女性、擬人化した動物や妖怪もいます。全てが共存し、仲良く暮らしている世界。色々と考えて見返しても答えが見つからない不思議がいっぱいの物語で、これはもうミラクルファンタジーとしか言いようがありません!!「この人は一体何をしているのかな?」と注目したり、馴染みのない妖怪も潜んでいます。そして、隠し絵や隠し文字も満載です。「この柳はゾウの形しているね!」など、ぜひ1ページずつ背景まで楽しんで、まだ見つけていない発見をしましょう!
いもむし電車は、終点で乗客を降ろすとサナギとなりました。そして立派な蝶となり大空へ飛び立ちます。最後の乗客はあなたです。読者が大空を飛ぶ蝶の背中に乗せてもらっているようなアングルで描かれています。素晴らしい景色の中を一緒に飛びます。
いもむし電車は実は各停車駅で、葉っぱや果物、キャベツなど、エサをもらって食べていました。沢山食べて沢山動いて、大勢の乗客を運んだいもむし電車は、終点の花畑駅に着くと、乗客に全員降りてもらいました。そして最後の食事はスイカです。しっかりエネルギーチャージしたいもむし電車はピンク色のサナギとなり、ピンクのベールの中で、すやすやすやすやと眠りにつきました。沢山の花々に包まれながら、温かいベールの中で十分に休んだいもむし電車。次第に中で成長し、ある日そのベールの中から出てきます。それはそれはピンク色の美しい大きな蝶になり、大空に向かって飛んでいきます。青く光る海を空から見下ろして、なんだか遠い国まで行けそうな様子です。実は、この蝶の背中にはタヌキの乗客が乗っています。蝶も「次は、あおぞらーあおぞらー!」と行き先をアナウンスしています。
本書を読む私も、なんだか一緒に蝶の背中に乗せてもらっているような気持ちにもなるラストシーンです。なんだか「どこまでも飛んでいきたい!このまま私も連れて行ってほしい!」と夢を見てしまいます★