ネコのなまえは
Theファンタジー★ネコ好きにピッタリ!ちょっと不思議なエンディングが「もう一回見て見ようかな」という気持ちにさせてくれますよ♩
☆際立った特徴
- 水彩絵の具でふんわりと色づけた後からサインペンでラインを描いている作風。
- 文を担当した枡野浩一さんは、歌人で口語短歌が主な作風。
- 絵を担当した目黒雅也さんは、「枡野浩一氏の短歌にはネコの絵がよく似合う」とコメントしている。(絵本館ホームページより)
☆読み聞かせのポイント
- 生まれたてのネコは、見慣れたネコの姿と違いますよ。どんな風に育っていくのか、どうしてミルクや湯たんぽが必要なのか、生き物を育てる観点から、見て親子で一緒に学ぶのも楽しみの1つです。
- どんどん育って大きくなっていく「ネコ」。どうなるの?どうなるの?とページをめくる度に驚きが増していきます。「ネコ」じゃないのかな?ライオンなのかな?山なのかな?とお子さんと話ながら読み進めると面白いと思います。
☆あらすじ
ある雨の日、うちの庭の竹やぶにネコが降ってきた。
そっと近づいていったら、ネズミのような小さなものが土の上に落ちていた。
目も開いていなくて、ネコだとは思わなかったけど、声はネコだからネコだと思う。
このネコに「ネコ」と名づけた。
湯たんぽで温めて、スポイトでミルクを与えたら、みるみる成長して、すっかり子猫らしくなった。
うちにはもともと「イヌ」という名の犬がいて、「ネコ」は成長して「イヌ」と同じ大きさになった。
どんどん大きくなって、「イヌ」より大きく、そして僕より大きくなった。
お前は本当はトラなの?ライオン?怪獣じゃないよね??
「ネコ」は家よりも大きく、山よりも大きく・・・どんどん大きくなった。
今夜はまん丸の満月だ。「ネコ」はもうここにはいない。
「ネコ!お前は本当は何だったの?ネコだったの?」
どこからか声が聞こえる。「ニャーニャー」って。

☆書店員の感想
表紙の猫。黄色の背景の中に同じ色の猫を描いているのですが、何を表現しているのでしょう?猫なのか満月なのか、それとも本当はもっと違う物だったのか…?
表紙を見てください!背景の黄色の中に同じ黄色の猫が描かれています。白で猫を囲うように描かれています。
私は本書を遠目で見た時、「満月かな?」と思ったんです。近づいてみると猫だと分かりました。でも逆にもっと遠ざかったら…どんな風に見えるでしょう?
私は月であり猫であり、別々の物のようで一つの物であるかのように見えてくる面白さがあるなと感じました。
中を読んでみて、なんて不思議な世界観で、なんてファンタジーなんだろうと思いました。そして、私が表紙から感じたことが半分くらい本の内容と合っていた事にも驚きました。
1回読んだだけでは咀嚼できない内容に、私は何度も読み返し、まだ考えています。
謎が残ってくれる絵本との出会いは、とっても楽しくて嬉しい事です。だって何度見ても面白いし発見があります。
そんな面白いと感じている謎や不思議な部分を、そのまま紹介していきたいと思います。
●成長した「ネコ」が月に帰って行くようなストーリーで、ずっと男の子が「君は本当にネコなの?」と疑問を持ちながら育ててる所が、面白さと不思議さ。
まず、主人公の男の子と猫が、竹やぶで出会う所からお話が始まります。
猫みたいな声だけど、自分が知っている猫とは少し違う姿。目もまだ開いていない赤ちゃんで、毛も生えていません。まるで「小さなネズミみたい」と男の子は言っています。
そんな猫に、男の子は「ネコ」と名前を付けました。もしかしたら”猫らしくなってほしい”と願ったのでしょうか。
だんだん大きくなっていくにつれて自分が知っている猫の姿になり、「やっぱり猫だったんだ」と確信を持てるようになっていくのですが・・・
そこからさらに変化していく「ネコ」。
最初は一緒に住んでいる犬より小さかった「ネコ」がどんどん大きく成長していきます。いつか犬の倍ほどの大きさになり、そしてさらに大きくなって男の子の3倍ほどの大きさに成長します。読者もビックリするような変化です。
大きくなった「ネコ」が、男の子と犬を温かい体で包み込むようなシーンが描かれるのですが、ここまでくるともう、この子は絶対猫じゃない!!と読者は考えてしまいます。
その後も成長を続ける「ネコ」。
男の子は、まさかトラだったの?ライオンだったの?怪獣だったの?!と驚きながら、猫だと信じて見守り続けます。
異常に大きくなる「ネコ」に対して「一体何者なんだ?!」と恐怖を感じたり、嫌ったりはしません。どんな姿でも大好きな家族だよと言っているかのように、接しています。(そんな気持ちが男の子とイヌの表情から溢れているので、ぜひチェックしてみてください!)
いよいよ住んでいる家よりも近所の山よりも大きくなった「ネコ」・・・。
「本当は何者なんだい?」と男の子が問いかけます。
答えがないまま、いつかネコはどこかへ行ってしまいました。どこへ行ったのか・・・。謎が残ります。
●男の子と犬が満月を見上げる様子と「にゃあ にゃあ」と月夜にぼんやりと聞こえる鳴き声が、ネコがいなくなった後の様子として描かれています。
男の子は竹やぶから聞こえるネコの声で存在に気がつき、赤ちゃんのネコを拾う所から物語がスタートしました。
シチュエーション的には昔話の「かぐや姫」に似た光景。月から光が竹やぶにさして、何かがそこに落ちてきた様子が、物語の最初に描かれ、男の子との出会いに繋がっていきます。(男の子は竹やぶに光が差し込んだ様子は見ていません。)
そして、物語のラストに男の子と犬が見上げた満月の中に、巨大化したネコがうずくまっているように描かれています。気持ちよさそうに丸くなって眠っているようです。ネコのシルエットがハッキリしているのではなく、ぼんやりと薄く影が見えるといった雰囲気です。
これが男の子と暮らしていた「ネコ」なのかどうか、断言できません。でもきっと「ネコ」なんだろうなと感じます。
「ネコ」は一体何者だったんだろう?
猫だったのか、月の使者だったのか、まさかの宇宙生物だったのか・・・。読者に不思議な気持ちと疑問を残したまま物語が終わっていきます。

●物語の前半と後半でガラリと雰囲気を変える展開!
ストーリーの前半は猫と出会い「ネコ」と名づけて大切に育てる姿を、後半は、「ネコ」が巨大化して、いつか男の子の元から離れてしまう様子を描いています。
前半は赤ちゃん猫を育てていく中で愛情が芽生え、家族として一緒にいる喜びや嬉しさを表現しているように感じます。
後半はどんどん大きくなり「ネコ」が猫らしくなくなっていく姿を見て、少しずつ自分の知らない「ネコ」になっていく不安や、いつか離れ離れになるのかも…と悲しい気持ちを感じる内容になっています。
特に後半にある月を見上げる男の子と犬の絵(ページ)からそれを感じました。男の子の気持ちと同じく、「ネコ」はどこへ行ってしまったんだろうと読者も悲しみに包まれます。
しかし、そのページから進むと、満月の中に「ネコ」が穏やかな顔で眠っているかのような姿が描かれています。
その姿は、さっきまで寂しい気持ちだった私を、とても穏やかで満たされた気持ちにしてくれました。
もしかすると離れ離れを男の子は悲しんでいるのかも・・・と思ったのは、私の勘違いだったのかもしれません。
だって夜空を見上げれば、いつだって「ネコ」に会えるのですから。
いつか「ネコ」が男の子と「イヌ」を温かい体で包み込んでくれたように、今度は月の光が温かく男の子達を包み込んでくれるのです。そして読者の私達も、一緒に包み込んでくれるのです。
耳を澄ましてください。どこからか「ネコ」の元気な鳴き声が聞こえてくるかもしれません。