ゆうきをだして

春の読み聞かせにピッタリ!チューリップの球根。なかなか土の上に出る勇気がない球根。でも温められ抱きしめられ、ゆっくり育ちます♬

☆際立った特徴

  • チューリップの球根が勇気を出して育っていく話。
  • 春らしい生き物が登場。美しい色彩。
  • お日様に温められて、抱きしめられて、元気づけられながら、育っていきます。
  • 勇気を出す大切さ。
  • 勇気を出したからこそチューリップは新しい友達と出会う。

※お日様の存在が、お子さんを育てるお父さんお母さんと重なる部分があるように思います。叱って励ますのではなく、抱きしめて温めて、成長を見守るお日様のように子育てしたいものですね☆

☆読み聞かせのポイント

  • まずまだ知らない子には、「この球根は大きくなったらチューリップになるんだよ。」と、土の中でじっとしている球根のページで伝えてあげましょう。
  • 「頑張れ!頑張れ!」読者もぜひ太陽が温めてあげているように、球根の場面、蕾の場面では手を当てて温めてあげましょう。そして、応援してあげましょう。
  • 美しく咲いたチューリップ。「お友達が沢山出来て嬉しそうだね。」「みんなも応援してくれていたんだね」など、感じたままにお話しましょう。
ゆうきをだして 表紙

☆あらすじ

土の中でじっとしているチューリップの球根がいました。

寒い冬がだんだん終わる頃になり、外に出ていかないと頭では分かりながら、なかなか勇気が出ません。

ここはとっても居心地がいいし、モグラのお友達もいるからです。

だんだん外は春らしく、お日様が地面を温めます。ゆっくりゆっくり、球根を温めて・・・温めて・・・。

暖かさでウトウトした球根は、うっかり土の上に芽を出してしまいました。

横に咲くタンポポが話しかけてくれました。ようやく芽を出したのね。あなたはもっともっと大きくなるのよ。素敵ね。大きくなるって。

でもチューリップの芽には自信がありません。自分は小さなままでいいと感じていました。

そんな小さな芽に春の雨が優しく降り注ぎ、「大丈夫!勇気を出して」と声を掛けます。

励まされた小さな芽は少しずつ少しずつ大きく育っていきました。

そして大きな葉っぱの間に、可愛い蕾が出来ました。

しかし、蕾はまだ自信がありません。こんなに大きく育って蕾まで出来てしまった事に困惑しています。

声を掛けてくれたタンポポは自分より下で咲いています。土の中でお話していたモグラは土の中です。

なんだか自分だけが一人ぼっちのような気がして、蕾はどんどん寂しい気持ちになっていきました。

蕾は花びらを開こうとはしませんでした。

そんな様子を見ていたお日様は、優しく温め、抱きしめるように「大丈夫だよ。勇気を出して!」と励まし続けました。

蕾は、だんだん「花を咲かせてみようかな?」と思えるようになりました。

そして少しずつ膨らみ赤く色づいた蕾は、とうとう花を開きました。

すると、もんしろちょうやてんとう虫が、待っていたよ!とニコニコと笑顔で会いに来てくれました。そして、「君は僕達の大切な友達だよ。君が咲くのをずっと待っていたんだよ。」と話しました。

野原に一つだけ咲いたチューリップは遠くからもよく見えます。ずいぶん遅くに咲いたチューリップを野原の虫たちはとても喜び、集まってきました。チューリップは、土から出て、大きく育って、咲いて良かったなと思いました。

そして、新しい沢山の友達の為に元気いっぱい大きく花を開きました。

☆書店員の感想

全く外の世界が見えない土の中。いよいよ外に出なくちゃと分かっていながら、外の世界がどんななのか知らない球根には勇気が出ません。だってこのままでも十分満足しているから。モグラのお友達もいます。

自分が球根なら・・・と想像してみました。寒い冬でも土の中は暖かくて平和で、不自由が無くて、モグラの友達もいます。球根は春になったら外に出て花を咲かせなくてはいけない事を知りつつも、このままで土の中で暮らし続けるのもいいかなーと考えているようです。

だって外の世界を知らない球根は、この環境を気に入っているし、ちょっぴり外がどんな世界なのか怖いからです。

私は球根の気持ちが分かるなーと思いました。

新しい環境、新しい場所に行くにはとっても勇気がいります。同じ場所に留まってしまえば楽です。でもいつかは、まだ出会った事のない場所に向かって歩き出さなくちゃいけない時が来ますね。

新入生や新社会人の気持ちは、きっと球根と重なる部分があるように思いました。

さあ、土の中の友達のモグラに励まされた球根は、これからどうして行くでしょう。

お日様の暖かさに「温められて、抱きしめられて・・・」というフレーズが読者の心を打ちます。なんだか成長を見守る保護者のような存在。

外はだんだん春の陽気に包まれて、暖かい風が吹き始めています。

土の中にもお日様のポカポカした暖かさがじんわり伝わって、まるで球根を抱きしめるように温めて、温めて・・・「ほら、外にでてきてごらん!」と、まるでお日様が球根に声を掛けるように温めます。すると、球根は暖かさにウトウトして、うっかり土の上に芽を出してしまいました。

ここで「うっかり」という言葉を使っているのも面白いですね。本当はまだ球根の心は「外に出てみよう!」勇気を出していたわけでは無かったことが分かります。

しかし、「うっかり」と言っている球根。土から出ちゃった時には、茶色の球根ではなく、ちゃんと緑色の芽を出しています。体はそこまで育っていたという事ですね。

お日様や雨のしずくに応援されながら、少しずつ花を開かせる勇気を出して。ようやく咲いたチューリップ。今か今かと待っていたお友達が沢山いた事に、気がついたチューリップです。

さあ、いよいよ外の世界を見ることが出来た球根。周りに咲くタンポポや雨のしずくに応援され、勇気づけられながら、大きく育っていきました。お日様にも温められ、どんどん体は大きくなり、花の蕾も膨らみだしてはいるものの・・・あんだか嬉しくありません。

だって土の中でお友達だったモグラ君達には会えないんです。他に友達がいないチューリップの芽は、一人ぼっちだと感じ、寂しい気分です。

「大丈夫だよ。花を咲かせてごらん。」と、お日様はまたチューリップの芽を抱きしめるように温めました。

勇気づけられ、いよいよ開花!となりそうな蕾。しかしここでまた咲く事に躊躇します。「どうしようかな。開いてみようかな・・・。」

勇気を出して、少しずつ花びらを開き始めたチューリップの元に、ちょうちょやてんとう虫が遊びに来てくれました。チューリップの花の香りに誘われたのでしょうか。

いえいえ、ちょうちょもてんとう虫も、外で咲くのを今か今かと見守って待っていたようです。虫たちは答えます。「君は僕たちの大切な友達だもの!」と声を揃えて答えました。

もっと花を咲かせたら、もっと多くの虫たちが遊びに来るようになります。1人ぼっちだと思って気がついていなかったけど、よく見たら周りにクローバーの花も咲いています。なんて嬉しい事でしょう。花を咲かせたら沢山の新しいお友達が出来たのです。

ゆうきをだして 裏表紙

お日様の存在

先ほども話しましたが、なんだか、チューリップの球根が新社会人・新入生・大きく言えば、育っていく子ども達と重なるように思いませんか?

新たな一歩を踏み出そうとして「勇気を出さなきゃ!」と自分を励まそうとしている方、新しい環境にウキウキワクワクしている方、「一人ぼっちかもしれない」と寂しさを感じている方、様々な思いがそれぞれあると思います。

お日様は皆さんをいつも空から見守ってくれています。いつでも私達に暖かさを与え、エネルギーをくれています。「君なら一歩踏み出せるよ。大丈夫!」と応援してくれています。

本書で描かれるお日様は、お母さんお父さんのような存在でもあるとあると思いました。いつでもギュッと温めて抱きしめて、成長を見守ってくれる両親と似ていませんか?

「一人じゃないよ!勇気を出してごらん。きっと素敵な出会いが待っているよ☆」

そんな風に絵や文章から感じられる1作だったと思いました。

よっぴー
  • よっぴー
  • 書店員のよっぴーです。2人の男の子と、1人の女の子の母として、毎日育児奮闘中です。
    私は自分の子どもに沢山の愛情を子どもが嫌がる時が来るまで、沢山沢山注ごう。心をもしコップに例えるなら、そのコップが溢れて「もう大丈夫だよ!」となるまで続けようと思っています。それだけは大事にしている信念です。
    絵本を読むのもその一つです。
    大切にしている愛情を伝える方法の1つだと思っています。

    保育士・幼稚園教諭二種・介護福祉士です。
    他に、ベビーシッター・ベビーマッサージ・ベビー’sサインなどの資格も持っています。
    絵本の感想とともに私の育児経験、保育士・幼稚園教諭免許を持つ書店員としてのアドバイスなどをご紹介出来たらと思っています。