わにさんどきっ はいしゃさんどきっ
こわごわ歯医者さんに来たわにさん。いざ勇気を出して治療を受けます。そんなわにさんを治療する歯医者さんも実はドキドキしていて…!?二人が同じ場面で同じ思い・言葉のやり取りをするゆかいなお話です。歯医者さんデビューの子にもピッタリ!
☆3つのおすすめポイント
- 虫歯が痛くて治療が怖いわにさんと、わにがこわい歯医者さんとの、違うようで同じ気持ちのやり取りが面白いお話です。
- わにさんと歯医者さんは違うようで表情や仕草が似ていて、見ていてほのぼのとした気持ちにもなってきます。どちらも素敵なキャラクターです。
- 五味太郎さんの色合いやイラストに惹かれます。また、これから歯医者デビューする子や、歯医者がちょっぴり苦手な子も、歯医者さんに対する気持ちが少し楽しいものに変わるかもしれません。
☆あらすじ
歯を痛そうに押さえているわにさんがいました。遊んでいたいけれど、行かなくちゃ。
機械をいじっている歯医者の先生がいました。遊んでいたいけれど、行かなくちゃ。
わにと先生が出会って、お互いにどきっ!!
びくびくとしています…。
こわいなぁ、と思う気持ちは一緒です。どうして怖いのかは、それぞれですが。
こわいけど、気持ちを奮い立たせて頑張ることに決めた二人。
お互いに覚悟を決めて、いざ治療開始です!
…しかし!痛い!!!
わには虫歯を触られて痛い!先生は、痛がったわにが口を閉じたので、噛まれて痛い!!
ひどいなぁ、と怒りの気持ちも湧いてきますが、怒っていても何も変わりません。
お互いに頑張り、無事に終わりました。ほっと一安心。
一緒にお別れの挨拶をしますが、もう会いたくないな…とお互いに思っている二人。
わにさん、歯磨き頑張りましょう!
☆際立った特徴
お話の内容は、お互いがお互いに同じことを話し、しかし、それぞれの表情や状況の違いから、思っている根本は違う、けれど同じ思いでいる、というやりとりが面白いお話です。
わにさんと歯医者さんとのお話ですが、お互いにお互いをこわいと思い、いやいやながらも治療に奮闘していきます。お互いに嫌がってはいるのですが、どことなく似ている二人が見ていて微笑ましく感じてきます。
歯科医院というちょっと緊張する場でのゆかいなやりとりに、歯医者さんへ行くことへのハードルが少し下がるようです。
五味太郎さんの独特なイラストが、二人の面白いような興味深いような世界観を作り出しています。
絵本の大きさは23㎝×23㎝の正方形で、大人の閉じた手のひら2つ分、大人も子どもも読みやすい大きさに思います。
☆書店員の感想
●虫歯が痛くて治療が怖いわにさんと、わにがこわい歯医者さんとの、違うようで同じ気持ちのやり取りが面白いお話です。
ジャングルの中に、1頭のわにさんがいます。歯が痛くて困り顔です。本当はゆっくり遊んでいたいけれど、遊んでいる場合ではないくらい痛いようです。痛くなる前に気付けたら良かったですね。遊びより、まずは歯医者さんに行くことにしました。
ところ変わって、今度は歯医者さんサイドから。なにやら機械をいじって遊んでいる様子。歯医者さんもゆっくり遊んでいたかったけれど、患者さんの姿が見えたので、行かなくてはならないな…と、少し残念そうな表情をしています。
お互いに出会って「どきっ!」としますが、こわいけれど、逃げられません!お互いに気合いが入りました。わにさんは口を開け、歯医者さんは腕まくり。わにさんが腰掛けている椅子には、たくさんの治療器具も置かれています。
わにさんの口の中には、やはり大きな虫歯が見えています。
治療を受けると痛かったわにさん。歯医者さんもわにさんに噛まれ、痛い思いをしてしまいました。それでもお互いに気持ちを奮い立たせて頑張ります。
ふたりのようすに、なんだか力が入って、応援したくなる気持ちが湧いてきます。
●わにさんと歯医者さんは違うようで表情や仕草が似ていて、見ていてほのぼのとした気持ちにもなってきます。どちらも素敵なキャラクターです。
遊びたいけど行かなくちゃ、とお互いに思っているようす。それぞれに状況は違いますが、思っていることは同じです。
そして、初対面で「どきっ」とした場面では、歯医者さんが遊びに使っていたペンチとドリルをそのまま手に持っていたので、それを見たわにさんがそれで治療をするのかと思い、「どきっ!」。
歯医者さんは、患者さんがまさかのわにさんで「どきっ!」。お互いに違う思いですが、どきっとする気持ちと表情が対比していて、じわじわと面白くなってきます。
こわいなぁ、とお互いに見つめ合っている顔も、ふたりそっくりです。
それぞれに覚悟を決め、治療開始。治療を受けて「虫歯が痛い!」・かたや「噛まれて痛い!」その二人の様子がアップで描かれていて、さらに目が二人とも同じ星のようになっていて、痛さが伝わってきます。
とんだハプニングに襲われ、ひどいよとちょっと怒りの気持ちもこみあげてきたようです。
けれど、わにさんは治してもらわないと来た意味がないし、歯医者さんはやはり虫歯を治すためのお医者さん。プライドにかけても患者さんの健康を第一に考えてくれているのでしょう。怒りは抑えて、治療を再開します。
歯医者さんが、わにさんの口を一生懸命開きながら、虫歯の治療を進めます。お医者さんの顔も、わにさんの顔の中に入っていきそうなくらいに近づいて一生懸命行っています。
虫歯の治療の最後に虫歯の箇所を埋めているシーンでは、もう少しだよ、頑張れ、とお互いに言っていますが、自分にも言っているような、相手にも言っているような、そんな感じがしました。お互いに、大変なことだけれど、一生懸命頑張っていることや気持ちが伝わりあったのかな、と思いました。
最後には、いずれまた、とふたりは挨拶しますが、お互いもう二度と会いたくないと思っていて、そんな気持ちまで一緒です。意外と似たもの同士なのかもしれませんね。
●五味太郎さんの色合いやイラストに惹かれます。また、これから歯医者デビューする子や、歯医者がちょっぴり苦手な子も、歯医者さんに対する気持ちが少し楽しいものに変わるかもしれません。
落ち着いた色合いのイラストで、歯医者さんの中も派手とかこわい、などの印象を感じないようすに思いました。線や絵も角ばっておらず柔らかい印象で、こわそうだけどちょっとかわいいわにさんと、口ひげを生やしている歯医者さんのキャラクターが素敵で自然と惹かれます。
まだ遊びたかった、わりと自由人のような歯医者さんですが、いざ治療にかかるとしっかりとしたお医者さんですね。小さいお子さんには、どうしても「歯科医院=こわいところ」というイメージがありますが、この本を一緒に読んで、歯医者さんも歯をきれいにしようと日々頑張っていることを伝えると、歯医者に対するイメージが少し変わるかもしれません。
長男の時は、歯医者がとにかくこわかったようで、はじめは椅子に座って歯科衛生士さんとお話をして、コミュニケーションをとって安心するところから時間をかけてくださいました。ちょっと安心してきたところで、口を開けて、まずは歯の汚れ落としをしました。長男の場合は、乳歯の抜歯が本来の目的だったので、どんなこわいことをされるのだろうと不安でいっぱいだったのだろうと思います。全然痛くないから、ちょっとやってみよう、という感じで、数日に分けて少しずつ進めて行きました。
確かに、口の中を触られるって抵抗があるかもしれませんね。長男はわりと敏感な性格なので、次男より拒否が強かったです。次男は3歳で歯科デビューでしたが拒否感は皆無で、自ら口を開けて待っていましたから、性格上の差も大きいのかもしれません。(笑)
この絵本のわにさんと歯医者さんのように、治療を受ける側もドキドキしますが、歯医者さんも虫歯を治そうと信念や考えを持って、ときにはどきどきしているかもしれませんが、こんな風に治療しているんだよ、歯医者さんに治してもらえば治るよ、と一緒にお話してみるのもいいかもしれませんね。
わにさんと歯医者さんの絶妙なやりとりに、歯医者さんでのやりとりということを忘れてしまいそうなくらいユーモアを感じられる作品のように思いました。
- 作品名:わにさんどきっ はいしゃさんどきっ
- 著者名:五味太郎(インタビュー)
- 出版社:偕成社