サンゴのもり
色や、形、性格も違う海の生き物たち。とってもキレイな海で一緒に生活しています。美しい絵がつぎつぎ目に飛び込んできて、ステキな世界に誘われます。
☆3つのおすすめポイント
- とっても色鮮やかな世界!海の中ってこうなっているのかな?いろんな生き物たちが一緒に生活している海の中を覗いてみましょう!
- みんな、自分だけの性格や個性を持っている。この絵本に出てくる登場人物たちもそうです。自分と似た魚が見つかるかも?
- いろんな「違う」があって、さらにキレイが増していきます。みんなの素敵な個性が折り重なって、かけがえのない景色を作り出しているようです。
☆あらすじ
緑色の魚が海の中を泳いでいます。名前は「ギザ」。ギザギザの尾ヒレが特徴です。
色鮮やかなサンゴの森には、仲間がいっぱいいます。
じっとしていられずアチコチに泳ぐ「アチコチ」という名前の魚や、くるくる回って泳ぐ「クルリ」、いつもふらふらしている「フラァー」、恥ずかしがりやの「コモリー」や、へそ曲がりの「ドッチ」、おっちょこちょいの「エビじーさん」、などなど…。14種類の仲間たちで、とってもにぎやかです。
そんな生き物たちのところへ、大きな魚が近づいてきました。ドッチが気づいて大慌て!
みんなでサンゴの森に隠れることにしました。
みんなサンゴの森に入り隠れました。大きな魚のそばでは、アチコチがクルクルと回って大きな魚の目を回そうと反撃します。魚は目を回して逃げていきました。
これでみんな一安心。サンゴの森でみんなでかくれんぼをして楽しみました。
今度は、フラァーがフラフラと海の上の方へ上がっていきました。なんだか、明るいな…。
海が満月の光に照らされていました。ほかの魚たちも集まってきます。
ゴッツンは、やっぱりごっつんとサンゴにぶつかってしまいます。
…するとそのとき。
サンゴからブクブクと泡のようなものが出始めました。まるで、雪が降っているようで、あちこちサンゴ中でブクブクとしています。
これは、サンゴが卵を生んでいるんだよ、とコモリーが教えてくれました。サンゴの産卵です。
サンゴの森の仲間たちはみんな仲良し、にぎやかに暮らしているようです。
☆際立った特徴
魚やカニなど、海の生き物たちが色とりどりにたくさん登場してきます。たくさんの色が使われていて、海の生き物やサンゴの美しさを最大限に引き出し描かれています。
また、絵本の帯にも書かれていますが、生きているサンゴの森、そんなサンゴの森で、色や形、性格も違う生き物たちが一緒に生きています。【多様性】を色鮮やかに謳う絵本として、作者のきむらだいすけさんは描かれたそうです。違うとはなんだろう、と考えさせられます。
とてもきれいなサンゴの森の中で、生き物たちのさがし絵もありクイズ形式で楽しめるページもあります。
絵本の大きさは19.7㎝×19.6㎝のほぼ正方形のかたちで、手に取って読みやすい大きさとなっています。
☆書店員の感想
●とっても色鮮やかな世界!海の中ってこうなっているのかな?いろんな生き物たちが一緒に生活している海の中を覗いてみましょう!
表紙と裏表紙の絵が続いているのですが、その絵からまずとってもきれいだな、と感じました。普段生活していてサンゴを見たり触れたりする機会はほとんどないように思うので、絵本の表紙のサンゴと生き物たちの美しさにまず惹かれました。
魚は、ペタッと色が塗られているようなものは2匹ほどで、ほかの魚たちは細かい色がモザイクのように混ざった体の色をしています。サンゴはさらにたくさんの色が細かく混ざっていて、まるで自分自身から発光しているような輝きも感じます。
そして表紙の内側ももうすでに物語は始まっています。ギザギザの「ギザ」が1匹泳いでいます。つぎのページでは大きな魚に追いかけられて、かまれたのかちょっと尾ひれがちぎれてしまっています。海の中で生活するうえで、危険な天敵ですね。これからのお話の伏線になっているような絵から始まります。
ギザから始まり、たくさんの個性豊かな仲間たちがいます。みんな見た目も性格も違いますが、海の中のサンゴの森で仲良く暮らしています。
大きな魚に襲われたときも、みんなで一緒にサンゴの森に逃げて、難を逃れました。きれいなサンゴは生き物たちを守ってくれる存在でもあるのですね。そんな中、アチコチが魚の目を回して追いやってくれました。アチコチがアチコチ動き回る仕草も、とても素早そうに描かれていて、可愛らしく、そして頼もしく感じました。
海の中で生活している生き物たちですが、満月の光に誘われて海面に近づいていきます。海の外の世界の美しさにも自然と反応するんですね。生き物たちのほんわかとした優しさと、自然の現象の神秘さを満月のページから感じるように思いました。とても素敵です。
そして最後はサンゴの産卵。サンゴは卵を生む、と恥ずかしながらこの絵本で知りました。また、産卵は満月の大潮の夜、前後11日間の間に起こるとのこと。そんな奇跡のような現象が海の中で起こっていることに感動しました。その美しさが絵本でも描かれていて、まるで海の中で実際に見ているような気持ちにもなってきます。魚たちの嬉しそうな表情も、見ていてこちらまで嬉しい気持ちになってきますし、ワクワクした気持ちも膨らみます。
●みんな、自分だけの性格や個性を持っている。この絵本に出てくる登場人物たちもそうです。自分と似た魚が見つかるかも?
サンゴの森のたくさんの仲間たちはみんな個性豊かです。「ギザ」、「アチコチ」、「クルリ」、「フラァー」、「コモリー」、「ドッチ」、「エビじーさん」のほかに、よく目が見えなくてときどき頭をぶつけてしまう「ゴッツン」や、ご近所さんの「ギンちゃん・ポンちゃん」。口の長い「ヤガラさん」や、ツノのついている「ヤハギさん」、ゆっくりな「ウミウシくん」、おせっかいな「カニダさん」もいます。ヤハギさんや、カニダさんは近所にいそうな親近感の湧くような名前にも感じました。
みんなそれぞれ性格を持っていて、私はこの子と似ているなぁと思う子に出会えるかもしれません。ちなみに私はゆっくりのウミウシくんか、おせっかいなカニダさんが近いような気がします。
そして性格だけでなく、目が見えにくいゴッツンや、ヒレが片っぽないクルリもいます。見た目も内面も違う生き物たちが楽しく暮らせるサンゴの森。鮮やかな姿でみんなを見守っているようにも思えてきます。仲間たちも、違いを否定せず受け入れ、穏やかに生活しています。きっと、嬉しいことはみんなで喜び合って嬉しい気持ちが増え、悲しいときにはみんなで寄り添いあう…。そんな心の安定する世界で生活しているんだろうなと感じました。
一見そういった生活は簡単そうですが、実際の人間の生活の中では、いろいろな違いからすれ違いや摩擦がたくさん起こっているように思います。どうしたら、この仲間たちのように、サンゴの森の中のように、温かく生き生きと過ごせるでしょうか。考えさせられるものがあるように強く感じました。
●いろんな「違う」があって、さらにキレイが増していきます。みんなの素敵な個性が折り重なって、かけがえのない景色を作り出しているようです。
この絵本で出てくる仲間たちは、色も形もみんな違います。サンゴもいろいろな色があり、みんなが集まり重なり合うとごちゃごちゃするのかな、と思いきや、みんなが集まったサンゴの森はとってもキレイな世界となっています。
配色も素敵なのですが、それぞれの色がお互いに良さを引き出し合っているように思えてきます。大きな魚に襲われてサンゴの中にみんな隠れたあと、サンゴの森の中にいる生き物たちを探すさがし絵のページもあるのですが、鮮やかな色でお互いに混ざりあい、探すのが楽しくなってくるようなさがし絵になっています。14種類の仲間たち、見つけられるかな?ほかのページもサンゴの森に入ってさがし絵のようになっている絵もありますので、生き物たちをじっくり探してみるのも楽しいように思います。
子どもたちに、人同士は違うんだよ、違って当たり前、ということを伝えるのって少し難しいかもしれません。私の2人の子どもも、男の子ですが性格がまず全然違います。これから体格も違ってくるでしょう。なんで違うんだろう、と自然に思い始めるときがくるかもしれません。違うことに対して理解はできても、「認めて」「受け入れる」ということは、子どもも大人ももっと難しいようにも思います。言葉で伝えると難しいですが、この絵本を通していろんな「違い」を持った仲間がいること、いろんな仲間同士で支え合っていることを説明するきっかけになったら良いなと思いました。そして、そんな子どもたちを見守るサンゴの森のような存在の大人になっていきたいとも考えさせられる、深いお話のように感じました。
大人も子どもも、絵の美しさとお話のテーマに感じることはたくさんあるように思います。ぜひお子さんと一緒に美しいサンゴの森に遊びに行ってみませんか。
- 作品名:サンゴのもり
- 著者名:きむら だいすけ
- 出版社:イマジネイション・プラス