ありがとう
卒業シーズンにピッタリ!思春期に入る頃の複雑な気持ちに優しく美しい絵がそっと寄り添う。素晴らしい作品です!
☆際立った特徴
- 『せんそうしない』に引き続き、二度目のコラボ!
- 谷川俊太郎さんの詩を、えがしらみちこさんが”卒業の日に「私」が思うこと”というイメージを膨らませ、一冊の絵本に。
- 文章だけでも絵だけでも、それぞれ楽しむことが出来、それぞれどんな事を伝えたいか感じる。
- 絵と文が揃うと、さらに読者の想像や考えが膨らむ。
☆読み聞かせのポイント
- 1ページ1ページゆっくりと、言葉と絵を楽しみ、読み進めましょう!
- 少女が何を見て、卒業する校舎に何を感じ、心の中にどんな想いを残しながらいるのか。
- 自分の学校時代を思い出しながら読むのも良いでしょう。これから学校へ通う子ども達は、お兄さん・お姉さんになるとはどういう事か夢を膨らませながら読むのもいいでしょう。
☆あらすじ
【※本書は文と絵を一緒に読まないとあらすじを感じ取ることが出来ません。なので、私が本書を読んで二通り、感じ取ったストーリーを書きます。読む方によって見え方・感じ方は違うと思うので、その点ご了承ください。あくまで、私の感じ取ったストーリーです。】
【1つ目】
今日、小学校を卒業する少女。
今まで通った通学路。毎日通った校門。
履きなれた上履きに足を通し、明日から二度と来ることのない校舎を見て回る。
校庭の桜が満開だ。毎年咲く桜が、今年は私達の背中を押す。
桜の下に白い花が毎年咲いているのを私は知っている。
私はこの花が大好きだ。
卒業生が式場に入場する。
私は胸に花の飾りをつけて、胸を張って歩き出す。
お母さんも見に来てくれている。少し恥ずかしい気持ち。
でも、伝わってほしい。
「お母さん今までありがとう。」
卒業生が整列し、在校生や保護者に向かって挨拶をする。
今日、私達はこの学校を卒業する。
これから先、私達にはどんな未来が待っているのだろう。
不安もあるけど大丈夫。私はこれからが少し楽しみだ。
これまで大きく育ってくれて、ありがとう。
あの空の鳥のように、私達は未来へ向かって進んでいこう。
【2つ目】
今日、卒業式を迎える少女。
校舎に入る前に、空を見上げ、少女は思う。
6年間見守ってくれて、ありがとう。
校舎に咲く美しい花を見て、少女はまた思う。
今日も咲いていてくれた。6年間、見守ってくれてありがとう。
忘れないよ。
卒業式が始まり、卒業生が一人ずつ入場する。
お母さんが来てくれている。
少し恥ずかしいけど、やっぱりお母さんに伝えたい。私のこの姿を見て欲しい。
こんなに大きくなったよ。
でも、ふと少女は思う。
私は、この先、どうなっていくのだろう。どんな大人になるのだろう。
きっと誰にも未来は分からない。でもこれから私達は大人になっていく。
沢山の人に支えられ、私達は生きている。
今日卒業生はこの学校を卒業し、皆がそれぞれ一歩、新しい道を踏み出す。
きっと時々、立ち止まっては、今までを思い出し、懐かしむだろう。
そしてまた空を見上げ、今ここにいる自分にエールを送る。
私は私に、「ありがとう」と呟こう。
☆書店員の感想
私の書いた「本書のあらすじ」について。
詩人として有名な谷川俊太郎さんの文に、美しく透明感の中に生命力を感じる絵を描かれるえがしらみちこさん。2度目のコラボだそうです。1作目は「せんそうしない」です。
本書は卒業する少女が主人公です。
文章は「詩」なのですが、絵と一緒に見ていると、何となく少女の気持ちやストーリーが伝わってくるのですが、それを【あらすじ】にして表現するには、私には難しかったです。
文と絵があるからこそ、想像を膨らませ感じ取ることが出来ました。
私が書いた「あらすじ」は私が感じ取ったストーリーにすぎません。
もしかしたら作者さん達の伝えたい事の一部しか、「あらすじ」として私はつかみ取れていないかもしれません。
ぜひ、本書を読み、皆さんに感じ取ってほしいと思います。自分の子どもの頃を思い出しながら、または、お子さんの卒業式を思い出しながら、読んで感じ取ってください。
表紙の美しさをまず楽しんで下さい!。
なんと美しい横顔でしょうか。そして少し斜め上を見上げる少女は、何を思い何を感じているのでしょうね。
少女はどこか大人びて見えますね。実は私の中学校の時の制服に彼女の着ている制服がそっくりで個人的にビックリ!しました。本を開くと私も中学生に戻ったような気持になりました。
あの頃、私は何を考えていたのでしょう。
空を見上げれば、美しい景色に心が救われるような気持になる事もあったし、漠然と不安を感じることもあったように思います。急に孤独感を感じた時もあったし、逆に将来に対して大きな希望を持ってみたり、「出来る気がする!」と根拠のない自信を持つこともあったように、思い出します。
同時に、私は自分が嫌いな事があります。それは昔も今も同じ。もちろん、大好きな時もあります。
好きだったり嫌いだったり、自分であることが苦しかったり、自分であることが誇らしかったり、様々な思いを持っています。
本書の主人公である少女くらいの時はなおさら、そんな感情が毎日毎日コロコロしていた気がするんです。でも、やっぱりどんな時も私は私であることに変わりなく、戻りたい過去に戻ることも、知りたい未来へ行く事も出来ず、ただただ、今の自分を受け入れて毎日過ごしていたように思います。
本書は、卒業を迎える6年生にも、現役中学生にも、昔中学生だった方にもオススメな絵本だと思います。
あの時楽しかったなーと思い返すのも良いでしょう。今でもまだ後悔している事もあるかもしれませんね。こそばゆい気持ちを思い出すかもしれません。
子どもでありながら、大人に少しずつ近づいている事を、自然と感じ取っているこの年代の、とても不安定で、とても複雑で、とても繊細な想いを持っている時期をぜひ思い出してみませんか?
そうすればきっと主人公の少女の気持ちをジンワリ感じとることが出来るかもしれません。
●「ありがとう」
この「ありがとう」という言葉には、重みがあります。
この日は卒業式。様々な思い出の中、沢山の友達と先生への感謝。ここまで育ててくれた家族への感謝。そして、私が私である事の喜びを「ありがとう」の言葉に全て込めているように思います。
ラストページで、少女は斜め上を見上げながら自分に対して「ありがとう」と呟きます。
私はこの表情にとても魅力を感じました。そして未来への希望を感じました。
育ててくれた学校にありがとう。育ててくれたお母さんにありがとう、私が今の私として育ってくれてありがとう。これから、歩んでいく未来への一歩へ、ありがとう・・・★
- 作品名:ありがとう
- 著者名:詩 谷川俊太郎 絵 えがしらみちこ
- 出版社:講談社