きょだいな きょだいな
こんな大きなものがあったらどうする?子どもの想像力に強く働きかける絵と、ストーリー。とてもインパクトがあります。大人にも子どもにもおすすめ!
☆3つのおすすめポイント
- 現実ではありえない!けれど、実際にあったら楽しそうな【巨大なもの】がつぎつぎと出現。ここはどんな世界だろう?とっても不思議な世界です。
- リズミカルな文章、躍動感や幻想感があふれる絵のタッチで、ストーリーがますます興味深いものになっていきます。最後まで読んでも、また見返したくなるような余韻も感じます。
- こんな大きいものがあったら、どうする?これがこんなに大きくなったら、どうしよう?そんな想像が自然と膨らみそうです。
☆あらすじ
広い野原のど真ん中に、巨大な大きな大きなピアノがありました。そこへ子どもが100人やってきて、ピアノの上でおにごっこを始めました。いろんな音が響きます。
今度は、野原のど真ん中に、巨大な黄色い石鹸がありました。
裸の子どもたちが100人、水をかけた石鹸山でツルツル滑って遊びました。
次は、大きな大きな黒い電話がありました。100人の子どもがやってきて、【ゼロゼロゼロ番】を回しました。すると…
閻魔大王の受付につながってしまいました。地獄に落ちたい子は誰かな?と不気味な笑みで近づいてきます。子どもたちは大急ぎで逃げ出しました。
今度は、野原のど真ん中に、巨大なトイレットペーパーがありました。
ゴロン、と転がりだすと、止まりません!
ゴロゴロゴロ…とどんどん転がっていきます。子どもたちが100人で追いかけて、みんなでおしりを拭きました。
野原は夜になりました。
夜の野原に、巨大なビンがありました。今夜は100人の子どもたち、このビンの中で眠ります…。
次は大きな大きな、桃がありました。
100人の子どもたちが桃を割りました。すると!!
中から勢いよく、たくさんの桃太郎が飛び出してきました!力持ちの桃太郎がいっぱい!
さらに次は、巨大な泡だて器が出現。100人の子どもたちで、空をぐるぐるとかき混ぜました。すると雲がもくもくと発生し、雨がザーッと降ってきました。
今度は巨大な扇風機。100人の子どもたちがやってきて、誰かがスイッチに腰掛けました。
すると扇風機が動き出し、強風が!
風に飛ばされ、子どもたちはくるくる…と飛ばされていきました。
たどり着いたのは、一人一人の家族のもとのようです。
☆際立った特徴
野原の真ん中に、現実ではありえないような巨大なものが出現します。それがいったいどうなるのかな?と、想像するのがとても楽しいお話です。意外な展開にドキドキしそうです。
また、巨大なものと木と野原とキツネ。それ以外は周辺にありません。とても不思議な世界で、楽しそうでもあり、神秘的でもあり、魅惑的にも感じる世界感で、読む人にとっていろいろな感じ方があるでしょう。
絵も貼り絵と絵の具とが混じったような描写で、にぎやかな絵や、静かで幻想的なシーンもあり、素敵な絵画を見ているようです。文章も同じ言い回しでリズミカル、ものに対する表現の擬音語のような表現も、自然と耳に響き、印象的です。
絵本の大きさは20×27㎝で、横長の形の絵本となっています。
☆書店員の感想
●現実ではありえない!けれど、実際にあったら楽しそうな【巨大なもの】がつぎつぎと出現。ここはどんな世界だろう?とっても不思議な世界です。
広い広い野原。ピアノが登場したのは朝でしょうか。キツネが巨大なピアノを下から眺めています。ピアノを下から見上げるようなアングルで描かれているので、巨大感が強調されているようです。
100人の子どもたちは、鍵盤の上で遊ぶ子や、カギを覗く子、ピアノの上の広い面で走り回る子など様々です。子どもたちがたくさんのっても遊びまわれるくらい大きなピアノで、じっくり見ていると、ピアノが大きいのか、子どもが小さくなったのか分からなくなってくるような不思議な感覚にもなってくるように思いました。
大きな石鹸の山を滑るのはとても楽しそうですね。巨大な【黒電話】は、いまの子どもたちが見たら「?」と、何か分からないかもしれませんね。番号も「押す」ではなく「回す」ので、1988年に発行された当時の時代を感じます。けれど、昔はこうだったよ、と伝えるいいきっかけにもなりそうです。しかしそこから出てきたのは、閻魔大王の受付係。微笑んでいますが、どことなく不気味さを感じます。耳を押さえている子どももいるので、不快な音なのかもしれません。
気付くとだんだん夕方になってきたようです。
転がっていたトイレットペーパーでおしりを拭いている子どもたちの姿が可愛らしくも感じます。みんな一緒に要を足したのかな?使いたいと思っていたのかな?ここでも自然と想像が膨らみます。
夜になり、みんなでビンの中で眠りました。みんなで一緒にビンの中にいると、安心できそうですね。キツネはビンの下で丸くなって眠っています。このキツネの存在も気になります。
桃から桃太郎が飛び出して来た時も、一人に一人ずつ飛んできているような絵が描かれていますので、もしかして桃太郎も100人…!?と思いました。と、いうことは、鬼も100人いて、100通りの桃太郎のお話が…っと、また妄想してしまいました。(笑)
泡だて器や、扇風機の描写も面白いですね。そして、扇風機の風で子どもたちは家族のもとへ飛ばされていく。
巨大なものが野原のど真ん中に登場するシーンでは、子どもたちの姿はありません。子どもたちはどこからやってきて、どこへ帰っていくのか。そして最後扇風機が野原に登場するシーンでは、キツネは木に右手をついて、扇風機の方を見ながら一息ついているようにも見えます。そして、子どもたちが飛ばされていくところではキツネの姿がありません。もしかして、キツネがだましていたのかな…?など、不思議な感覚と想像がどんどん広がっていきます。
●リズミカルな文章、躍動感や幻想感があふれる絵のタッチで、ストーリーがますます興味深いものになっていきます。最後まで読んでも、また見返したくなるような余韻も感じます。
文章は、「あったとさ あったとさ」で始まります。言葉の言い回しが同じで、声に出して読むとリズムをとっているかのような軽快な印象で、楽しい気分になってきます。
巨大なものが描かれているページから、次にめくると子どもたちが出てきてその巨大なものと触れ合っているようなシーンになるのですが、その変化が面白く感じます。
夜になってビンが現れ、子どもたちがすやすやと眠っている場面はとくに幻想的です。緑色の透明な巨大なビンの中で子どもたちが眠っているのですが、そのビンの上部には三日月や夜空に輝く星たちがうつって輝いているようです。文章の表現もとても素敵ですので、ぜひ絵を見ながら読んで見ていただきたいです。
夜空の星たちに照らされている子どもたち。みんなぐっすり眠っているようですが、現実ではどうなっているんだろう?夢の中?それとも時間が止まっている?等見れば見るほど気になってきます。
桃太郎が子どもたちを持ち上げたり抱っこしているのも、赤ん坊なのにすごい力!と、感心してしまいます。
また、描かれている野原も全ページ違っていて、絵の具の滲み具合や、夕日に照らされているようすなど描き分けられていて、ページごとに雰囲気がガラッと変わっています。
そして、最後に風に吹かれて帰ってくる子どもたち。家族もなんとかうまくキャッチしてくれています。どうやって行って、どういうタイミングで帰ってきたのか、その間、親たちは気付いていたのか?どう過ごしていたのか…最後のページを見るとますます不思議が重なっていき、ストーリーの余韻に浸ることができるように感じました。大人の方がもしかしたらそう感じるかもしれませんが、お子さんと一緒に、この不思議な世界を体験してみてはいかがでしょうか。
●こんな大きいものがあったら、どうする?これがこんなに大きくなったら、どうしよう?そんな想像が自然と膨らみそうです。
この絵本では、ピアノ、電話、トイレットペーパー、ビン、もも、泡だて器、扇風機が巨大になっていました。こんな巨大なものがあったらどうする?とお子さんと話を膨らませてみるのも良さそうですね。そして、別の角度から「○○が巨大になったらどうする?」と考えてみても、想像力が働いて楽しい意見が続々と出てきそうですね。
非現実的な世界観が面白さを引き立たせ、夢に出てきそうなお話だなと思いました。子どもも、「もし~だったら」って、好きですよね。ストーリーもイラストも最初から最後まで印象的で、絵の雰囲気や奥行きのある描写、躍動感も強く描かれていて記憶に残る絵本のように感じました。ぜひお子さんと一緒に楽しんでみてください。
- 作品名:きょだいな きょだいな
- 著者名:作/長谷川摂子(インタビュー) 絵/降谷なな(インタビュー)
- 出版社:福音館書店