じごくにアイス
アイスやさんのこたろうが、滑って転んで、気づいたらあの世にいた!?大騒ぎのあの世で、こたろうがみんなにしたこととは…?こたろうの、摩訶不思議な体験のお話です。
☆3つのおすすめポイント
- こたろうが、滑って転んでしまいました!転んで、気が付いたらあの世にいた…!?ビックリな展開ですが、そのあとこたろうは一体どうなるのでしょうか!?
- 個性豊かな登場人物たち。鬼もなんだか人間のようで、親近感が湧いてくるようです。こたろうの魅力が最大限に発揮されています。
- 大きい絵から小さい細かい描写までじっくり楽しく楽しめます。いろんなシーンの登場人物たちのインパクトが大きく、見れば見るほど引き込まれていきます。
☆あらすじ
アイス屋さんのこたろうが、今日も公園でアイスを販売しています。こたろうのアイスは、美味しいと評判です。
そんなこたろうのもとに、一人の女の子がアイスを買いにやってきました。
こたろうが、「いらっしゃい!」とアイスの準備をしようとした瞬間…
地面に落ちていたバナナの皮を踏んで滑ってしまい、スッテーン!と転んでしまいました。女の子もビックリして、アイス屋さん!と声をかけてくれますが、その声もどんどん遠くなっていきます。
こたろうが目を覚ましました。するとそこは、見たことのない川岸です。頭に三角の布を巻いて、白い服の人たちがたくさん集まっています。
そこに、大きな鬼たちがやってきました。これから、全員を閻魔様のところに連れて行くというのです。
こたろうは、自分が死んでしまったのでは…と心配になってきます。
船に乗り、川を進んでいくと、遠くにお城が見えてきました。なんと、閻魔大王のいるお城でした。しかし、閻魔様や鬼たちはみんな慌ててどこかへ走っていきます。こたろうもされるがままに連れて行かれてしまいました。
その先は地獄の世界でした。けれど、あたりはとっても臭い!屁こき鬼の屁に火が燃え移って、かまどが暴れているようです。かまどはだんだん、ミシミシと音を立て始めました。
その直後、かまどは大爆発!火の粉が地獄中に飛び散って、もう大変!みんなで三途の川から水を汲んできて、消火活動を行います。みんなで一心不乱に頑張り、数時間後なんとか火は収まりました。
みんなもう、ぐったり。熱い火のそばにいたので、なにか冷たいものが食べたいな…と、鬼が言いました。
するとこたろうは、「アイスっていうものを作れるで」と鬼に言うと、みんなでアイスを作る準備を始めることになりました。
牛乳の代わりに、マッドホルスタインの乳を絞って準備し、ニワトリの卵の代わりはデラックスプテラノドンの卵です。ニワトリの卵千個分くらいある、巨大な卵です。そして、アイスを冷やす氷はこおり地獄から調達してきました。
材料が揃うと、こたろうの指示のもと、アイス作りを行いました。歌を歌いながら楽しく作ります。
ついにアイスの完成!一口食べると、「うまい!!」
あっという間に、アイスを求めて行列が出来ました。地獄の鬼たちも、こたろうのアイスで喜んでくれ、こたろうは嬉しくなりました。やっぱり、アイス作るの好きだな〜と、改めて思います。
そこへ、走り鬼が慌ててやってきました。閻魔様がこたろうを呼んでいるそうです。
閻魔様のいる裁きの部屋に着いたこたろうは、閻魔様にもアイスを持っていき食べてもらいました。すると、閻魔様も美味しいと喜んでくれました。
と、その時です。「アイスやさーん!!」と呼ぶ女の子の声が聞こえてきて、空には光のトンネルも見えています。こたろうはまだもとの世界でやり残したことがあるから呼ばれているのだそう。閻魔様は、アイスのお礼にとこたろうを空に放り投げました。
こたろうが目を覚ますと、そこはさっきの女の子のいるアイスクリーム屋さんの前。
女の子が何回も呼んでくれたおかげで、無事この世に帰ってくることが出来ました。
☆際立った特徴
あの世とこの世の世界、鬼がたくさんいるあの世と、閻魔様の存在が印象深い内容です。子どもにとっては不思議な世界でしょう。
アイスクリームを通して、みんなが喜んでくれるのが嬉しいこたろうは、あの世でもみんなを喜ばせるために奮闘します。そのステキな人柄が伝わり、この世に帰ってくることが出来ました。
たくさんの鬼たちや、存在感抜群の閻魔大王などが出てきますが、どこか人間らしく、怖さはあまり感じません。みんなで協力して成し遂げる素晴らしさや大切さも感じることができるでしょう。
いろんな種類の地獄も描かれていますので、親子でじっくり地獄めぐりも楽しい内容です。

☆書店員の感想
●こたろうが、滑って転んでしまいました!転んで、気が付いたらあの世にいた…!?ビックリな展開ですが、そのあとこたろうは一体どうなるでしょうか!?
アイス屋さんのこたろう。愛猫と一緒に、今日も店開きです。公園で準備をしていて、黄色の車がお店屋さんです。
こたろうのもとに女の子がやってきて、アイスを作るために歩き出すと、なんとバナナの皮を踏んで滑ってしまいました。バナナの皮で滑るなんて、ちょっとギャグっぽいな…と、ちょっとクスッとしてしまいそうですが、こたろうの豪快な転び方!!転んだ拍子に、ネコもお尻で踏んづけてしまいます。あの世で気づいたときには、ネコも一緒でした。
川岸にはたくさんの幽霊と思わしき人たちが集まっています。怒っている人や、すでに仲良しさんを見つけているのか楽しそうに話している人など、現実世界と同じようにいろんな人がいます。
川からやってきた係の鬼は、こたろうの身長の3倍ほどありそうな大きい鬼で迫力があります。なにかあっても逆らえなさそうです。閻魔様のお城に着くとみんな大慌てですが、壁には左の矢印のほうが天国、右の矢印のほうが地獄、と書かれていますので、ここで天国行きと地獄行きに分けられるようですね。こたろうは一緒に行くつもりではありませんでしたが、鬼の棍棒に服が引っかかり、地獄に連れて行かれてしましました。地獄は大変なことになっていましたが、みんなで力を合わせて解決します。
そのあと、みんなで協力してアイスを作ったこたろう。こたろうの説明にみんなが一緒に動いてくれて、美味しいアイスが完成しました。怖い鬼たちがたくさんいる中ですが、こたろうの勇気と人間力、みんなに喜んでもらいたいという気持ちが鬼たちにもしっかり伝わったような気がしました。立派なアイス職人ですね。
女の子もアイスを心から待っていて、その気持ちが伝わり、こたろうはこの世へ無事に帰ってくることができました。
●個性豊かな登場人物たち。鬼もなんだか人間のようで、親近感が湧いてくるようです。こたろうの魅力が最大限に発揮されています。
こたろうは元気いっぱい、ステキな青年という印象です。看板ネコもいい仕事をしていそうな感じがします。二人三脚で頑張っているんですね。
無邪気な女の子、うちの子供達もアイスが大好きなので、公園に美味しそうなアイス屋さんがいたら、真っ先に並びそうです。(笑)
あの世に行ってからは、鬼たちがたくさん出てきますが、色とりどりな鬼たちです。黄色や紫、黄緑色に水色など、個性豊かな感じがします。髪型や眉毛、ツノの本数やついている場所もそれぞれ違います。人間同士、同じ人が存在しない、ということと同じように思いました。そしてやはり、閻魔様は一番を威厳を感じる佇まいですね。王と描かれた帽子をかぶって、立派な眉毛に立派なヒゲも生えています。
鬼たちも、火を消しているときの真剣で必死な表情、火が消えてホッとくつろぐようすがなんとも人間のように見えてきて、近所のおじさんのような親近感さえ感じます。(笑)甘くて美味しいという、まだ食べたことのないアイスのため、火を消して疲れているはずなのに必死で頑張る鬼たちに、応援したい気持ちになってきます。とても凶暴なマッドホルスタインに果敢に立ち向かったり、火を吹くプテラノドンの卵をなんとか頂いてきたり、ツノを凍らせながらも氷を取ったり…。鬼たちも過酷な環境の中、一生懸命働いているんだなぁ…、と大人目線で感じてきて、なんだか勇気づけられます。(笑)
閻魔様にも物怖じすること無くアイスを差し出し、美味しさを味わってもらえたこたろう。こたろうの真っ直ぐな姿勢とアイスへの情熱、働くことへの意欲や充実感など…見ていて勉強になるなぁ、とも思いました。鬼がすごい、アイスが美味しそう、だけではない物語の内容を感じます。
●大きい絵から小さい細かい描写までじっくり楽しく楽しめます。いろんなシーンの登場人物たちのインパクトが大きく、見れば見るほど引き込まれていきます。
こたろうアイスのお店がまず魅力的です。今日はトリプルアイスデーだそうです。コーンも選べて、味も10種類。お好み焼き味もあるようで、ちょっと冒険して食べてみたいような気もします。
この世からあの世へ変化した途端、雰囲気がやはり物々しくなってきます。地獄に入ったこたろうに待ち受けていたのは、へこきおにの猛烈な臭さでしたが、いろんな地獄が描かれていて、見ているだけでも楽しめそうです。針山地獄に糞尿地獄、ヘビ地獄、舌抜き地獄もあります。後半の地獄のページでは、猛獣地獄や虫地獄、血の池地獄もあり、どの地獄も厳しそうです。長男は、どんな地獄があるんだろうと興味津々でじっくりと見ていました。3歳の次男は鬼に対して恐怖心がやはりあるのですが、この本の鬼は怖くない!と言って、何度も読んでいました。いろんな表情の鬼がいますので、楽しく見られるような気がします。
力を合わせて火を消したり、アイスを作ったりする鬼たちの人柄もステキに感じました。
また、かまどが大爆発!!のシーンは迫力満点です。一生懸命火を消すシーンも、とても熱そうなのが伝わってきます。また、一緒に来たネコにも地獄のネコのお友達ができたり、骸骨の顔のトンボが飛んでいたり、新聞を読んでいる鬼がいたりと、細かいところまでじっくりと見るといろんな面白い発見があります。
そして一番インパクトが大きかったのは、初めてアイスを食べたときの、鬼の満足そうな顔。2ページいっぱいに黄色の鬼の嬉しそうなようすが描かれています。初めて食べたアイスの冷たくて甘くて美味しい、その感動が、ページいっぱいからひしひしと伝わってきます。こたろうはいつもきっと、こんなステキな笑顔をたくさん見てきたのでしょうね。食べたひとはもちろん、作ったひとも幸せな気持ちになるひとときのように思いました。
こたろう、この世に帰ってこれて良かったですね。けれど、こたろうなら、この世でもあの世でも楽しく過ごしていそうな気がしました。どんな環境でも楽しく変えられる、そんな人柄を見習いたいです。
また、表紙・裏表紙の内側にそれぞれ地獄の鬼たちについて解説つきで書かれていますので、あの世について詳しくなれるかもしれません!?この解説を読んで物語を読むと、更に楽しめるように思いました。
アイスはみんな大好きですね。私もだんだん食べたくなってきました。みんなを笑顔にするアイス、地獄でも天国でも、この世でも召し上がれ。
