ひめちゃんひめ
新しいお友達と出会う、入学・進学の時期にピッタリ!お友達になるってどういう事かな?
☆際立った特徴
- 小学1年生の男の子と、5歳程の女の子が出会う。
- ご褒美をもらう代わりに、家来になるという約束から始まる二人の関係。
- ある日一人で遊ぶ女の子を見た時に、男の子が感じた事とは。本当はどんな関係になりたいのかな?
- 「友達」とはなんだろうと、読者に考えさせられる物語。
- 友達になりたくてひめちゃんが勇気を出すシーンあり!息を飲むような緊張感。
- 絵本テキスト大賞第3回優秀賞受賞作(日本児童文学者協会・童心社共催の「絵本テキスト大募集!」第3回優秀作品の絵本化)
☆読み聞かせのポイント
- 友達って何だろう?何かのご褒美をあげたりもらう関係?それでは主人と家来の関係になってしまいます。友達ではないですね・・・。それでもひめちゃんの家に通い、ひめちゃんの望みを叶えてあげる男の子の気持ち。プリンを食べずに男の子を待っていた女の子の気持ち。それぞれ想像してみましょう。
- 約束を破ってしまった男の子は、女の子が気になります。こっそり家を覗いた時に女の子の姿を見た男の子はどんな気持ちになったのでしょう。
- 女の子は最後に勇気を出します。息を飲む展開。でも、きっとあの言葉を言いたいんだなと分かる瞬間です。「がんばれー!」と応援したい気持ちになる事でしょう。
☆あらすじ
僕の家の隣にひめちゃんが引っ越してきた。
ある日姫ちゃんが泥団子を作っていた。僕が声を掛けると、「そんなに作りたいなら、作ってもいいよ」だって。
僕が上手に作ってあげると、ひめちゃんは「よくできました!家来にしてあげるわ!」と言って、プリンのご褒美をくれた。
次の日も僕はひめちゃんの家に行った。するとまたプリンをくれたもんだから仕方なく砂の城を作ってあげた。次の日は沢山のお花を摘んで来てあげて、その次の日はおままごと遊びで赤ちゃん役をやってあげた。
プリンのご褒美をもらったから仕方なく言う事を聞いていたんだけど、友達にその姿を見られちゃって、急に僕は恥ずかしくなった。「明日は舞踏会ね」とひめちゃんは言っていたけど、もう行くもんか・・・。
次の日、僕はひめちゃんとの約束を忘れて友達とサッカーで遊んだ。
沢山遊んだ後、ひめちゃんの事が気になって、庭を覗いてみた。
ひめちゃんは家の中でお人形とダンスをして遊んでいる。なんだ。楽しそうにしてるじゃないか。と思って見ていると、急にひめちゃんがピタッと止まった。
「私、一人ぼっちも寂しくないわ。ホントよ・・・。シクシク・・・。」
僕は気付いてしまった。ひめちゃんは、本当は寂しかったんだって。
ひめちゃんは僕に気がつき、怒った顔で僕の所へやって来た。僕は、プリンはもういらないよ。家来になってあげるよ。と伝えた。
すると・・・、ひめちゃんはプリンを持ってきてくれた。本当はとっておいたんだって。そして、真っ赤な顔で僕に私の、友達になって!・・・くれないかな?と言った。
僕は手を握って「いいよ。友達になろう」と答えた。
☆書店員の感想
ひめちゃんと男の子の出会い。二人の関係は友達ではなく、主人と家来!?
男の子の隣に引っ越してきた家の女の子のひめちゃん。歳は小学校に通う男の子の1つ違い。小学校には通っていないようなので、おそらく保育園や幼稚園には通っておらず、日中を一人で家で過ごしている5歳くらいの子です。
ひめちゃんは引っ越してきたばかりという事もあり、園にも通っていないから、まだお友達がいないようです。ひめちゃんが庭で遊んでいる姿を学校帰りの男の子が覗いたことから、二人の関係が始まります。
しかし、二人の関係は”友達”ではありません。
「明日からあなたを家来にしてあげる」とひめちゃんは言うのです。男の子は、家来だなんて!?そんなの嫌だよ!と思い言い返そうとするのですが、ひめちゃんが「ご褒美に」と美味しそうで大きなプリンを男の子に見せられ…
お腹の空いていた男の子は唾を飲み、欲に勝てず、食べてしまいます。
というわけで、契約成立!
それから二人は毎日、『プリンをもらう代わりにひめちゃんの言う事を聞く』という、”家来と主人”という関係になってしまいました。
ひめちゃんの望みは、砂のお城を作って!とか、お母さんごっこのあかちゃん役になって!といった可愛らしい物ばかりでしたが…男の子は、やっぱり小学生の男の子です。いくらなんでも赤ちゃん役は恥かくてやりたくない気持ちをこらえて、なんとか赤ちゃん役をするのですが、タイミング悪く、友達に見られてしまったのです。
ここでついに男の子は、「もうこんなの嫌だ!」となってしまいます。
男の子の心境に注目すると、やっぱりひめちゃんより少し大きいお兄ちゃんなんだなと気がつきます。
急に恥ずかしくなり家に走って帰った男の子。きっと帰ってからも明日学校で何を言われるんだろう…と心配な夜を過ごしたことでしょうね。ひめちゃんには明日舞踏会ごっこをしようと誘われていましたが、「もうひめちゃんの家来はしたくない!プリンもいらないよ!」と心に強く感じた男の子は、次の日の舞踏会の事をほったらかしにして、他の子と遊んで帰ることにしました。でもやっぱりひめちゃんの事も気がかりです。一人でどうしてるかな?と心配になったのでしょうね。
そして、帰りにそっと庭を覗くとひめちゃんがぬいぐるみとダンスしている姿が見えました。「なーんだ。楽しそうじゃん!」と思った時、ひめちゃんの本心が聞こえて、ひめちゃんは寂しかったんだと気がつきます。きっと男の子の心は「可哀そうなことをしてしまった」と感じて罪悪感でいっぱいになったかもしれませんね。
実は寂しかったひめちゃんの、泣いている姿を見てしまうと、読者もなんだか可愛そうに思えてきますね。だって、きっと男の子が来るのを、朝からずっと待っていたんです。
強がっていていても、ひめちゃんはやっぱり、まだまだ幼い女の子。友達ってどんな事なのか、どんな意味を持っているのか分からなかったのではないでしょうか。
『とにかく誰かと遊びたい。どうやって遊んでもらおうか・・・。そうだ、プリンをあげたらきっと遊んでくれるはず。』こんな風に考えた結果の行いだったのではないかと、私は思いました。
さて、二人はこれを機に関係性を改めます。友達になれるかな?
男の子は、そんなひめちゃんの気持ちに気がつき、「プリンがなくても、ひめちゃんの家来になるよ」と言います。素敵ですね。お兄さんらしいと言うか、ひめちゃんを傷付けないように気を使った言葉だったのかもしれません。
そんな優しい男の子の気持ちが伝わり、ひめちゃんもある言葉を勇気を出して伝えようとします!
でも、少々意地っ張りなひめちゃん。ここでも少しへそ曲がりな言葉で言ってしまいます。
実はとっておいたプリンを差し出し、男の子に命令をだします。命令って、あれ?またこの関係が続くの?と読者は心配になるシーン・・・。ですが。
実はひめちゃんはこの時、とっても勇気を出そうとしています。顔を真っ赤にして「友達になって!・・・くれる?」と言いました。男の子には驚きの一言だったのかもしれません。
この「友達になって!」と命令したようで、「・・・くれる?」と付け加えて男の子に聞いています。ひめちゃんの少し見栄っ張りなお姫様気質な所と、実はとっても素直で可愛い所がある事と、すごく勇気を出したんだなと、感じさせる場面です。
命令って言っといて・・・。ひめちゃんたら可愛い♬
それに対して男の子は、全部の気持ちを受け止めて、「もちろんだよ!」と手を握るラストシーンで、お話が終わります。なんだかとってもお兄さんだなと感じさせるし、この二人の今後が気になる所でおしまいとなりました。きっと二人は何かをもらって、命令したりされたりする関係ではなく、お互いが楽しいと思える遊びを一緒に探して遊ぶのでしょうね。
だって、二人はもう『友達』なんだから☆
- 作品名:ひめちゃんひめ
- 著者名:作 尾沼まりこ 絵 武田美穂 (インタビュー「KUMONがうた・読み聞かせを応援ミーテ」)(講談社インタビュー 「絵本作家という仕事」)
- 出版社:童心社