ぶたのたね
ぶたのたねって何でしょう?ユーモアの中にシュールさも詰まっているストーリー展開に驚きます!冒険系やおもしろ系の本を探している子にピッタリ!
☆3つのおすすめポイント
- 足の遅いオオカミ。今まで野菜や木の実ばかりで、ブタを食べたことがありません。どうしたら食べられる?キツネの博士がくれた”種“とは??
- 大事に育てた”ぶたの種”。育った木にはなんと沢山のブタがぶら下がります!なんともユニークでありシュール。急展開のストーリーの中に、可愛そうなオオカミに読者は共感していきます。
- 「ブタを食べたい!」というオオカミの思いがどんどん読者を味方にします。最初はそんな可哀想にと思うかもしれませんが、後半にはきっと「1匹でも食べさせてあげたい!」と思う事でしょう!
☆あらすじ
足の遅いオオカミがいました。生まれてからこれまで、ぶたを食べたことがなく、いつも木の実や野菜しか食べたことがありませんでした。足が遅いので、いつもぶたを捕まえようとすると逃げられ、ぶたにバカにされる程でした。
ある時、キツネの博士に出会います。博士に訳を話すと、博士が発明した「ぶたのたね」をもらいました。【これを一粒土に植える。そして、早く大きくなる薬を毎朝ふりかけなさい。ぶたの木がどんどん大きくなって実がなるというわけじゃ】信じられない気持ちでしたが、オオカミは種をまきました。すると、すぐに芽が出て、毎朝薬をまき続けると、なんと一週間で大木になりました。
次の日、木を見に行くと、ブタがたくさん枝からぶら下がっていました。「これは待ちきれない!」と思ったその時です。ゾウの大群がドスン ドスンと大木の下を走って行きました。
振動で大きく揺れたぶたの実は、ボトンボトンと落ちてしまい、落ちたブタ達は、ゾウの後をついて行ってしまいました。足が遅いオオカミはぶたを捕まえることができません・・・。
がっかりしていると、大木の根元に気を失っているブタが1匹。「一匹でもまあいいさ。これで生まれて初めてブタを食べられるぞ!」ワクワクしながら火をおこします。やがて気を失っていたブタが目を覚まし、オオカミは押さえつけようとしましたが、無茶苦茶に暴れ、もみ合っているとオオカミのしっぽに火がついてしまい、あっちっちちち・・・!オオカミが飛び上がり、ブタはすたこらと逃げていってしまいました。
「今度こそ!!」と思いながら、オオカミは新しい種をまいて毎日薬を掛けているのでした。
☆際立った特徴
「ぶたのなる木」いったいどういうことでしょう?
果物の実がぶたの形なわけではありません。ブーブーと鳴くぶたが実るのです。
足の遅いオオカミの為に作られた”ぶたの実”。実ってほしいけどその後どうなるの?丸焼きにして食べられちゃうの?結末が少々心配にもなるような、複雑な気持ちになります・・・が。一体どうなるのかな?心配だけど、ぶたを食べさせてあげたい!おおかみを応援してしまいます。
1989年に絵本館から出版された人気シリーズの第一作目の「ぶたのたね」。ちょっぴりシュールで、ユニークなストーリーが、長年子どもたちに愛され続けている理由なのかもしれません。
☆書店員の感想
足の遅いオオカミ。生まれて今まで野菜や木の実ばかりで、ブタを食べたことがありません。どうしたら食べられる?キツネの博士がくれた”種”とは??
オオカミといえば、獰猛・肉食・怖い・暴力的・羊を襲う・・・など、あまり優しいとか穏やかとか、良い印象があまりありません。しかし、本書の主人公のオオカミは、真逆と言っても過言ではありません。足が遅くて、ブタなどの肉を食べたことがないのです。少しドジな所もあるようで、ブタ達に「ここまでおいで、あっかんべー」とからかわれるのです。
そんなオオカミはキツネの博士に出会います。『一度でいいからブタを捕まえて丸焼きにして食べてみたいんだ』と話しました。キツネ博士は研究所に連れていき、”種”をくれました。これを土の中にうめれば、ブタを好きなだけ食べられるそうです。種とブタ・・・?どういうことなのか??不思議ですね。そして大きな瓶を取り出して、オオカミに教えます。「この薬を毎朝ふりかけると、ぶたの木はおどんどん大きくなって、”ぶたの実”がなるというわけじゃ。」
さあ、どうなるのでしょうか?
大事に育てた”ぶたの種”。育った木にはなんと沢山のブタがぶら下がります!なんともユニークでありシュール。急展開なストーリーで、可愛そうなオオカミに読者は共感していきます。
オオカミが大切に育てた木。「ぶたの実なんて本当かなあ?信じられない」と疑いつつ、毎朝薬をまき、成長を楽しみにしていました。どんどん大きく育つ木を見上げているオオカミは、もう嬉しくてたまらなかったと思います。
次の日には念願の”ぶたの実”が育っているわけですが・・・なんとも言えないシュールさ。木にぶたがぶら下がっている。「えー!?」とびっくり。不思議でしかないシーンです。でも、象の走る振動でぶたの実がゆっさゆっさと落ちてしまうのです。そして象の後を追って行ってしまった・・・なんとも急展開。地面に落ちるまでは”実”であったはずのぶたが、木から離れた瞬間に、”命”を持った動物になるのです。そして逃げていってしまい、オオカミは足が遅くて追いつけない。あらら。せっかく育てたのに残念な。と読者は感じながら、なんて不運でドジなオオカミだろう。と残念だけど笑えてきます。
ストーリーがどんどん展開していくスピード感やテンポの良さが・シュールさが、読者にワクワクドキドキを与え、それでいて可愛そうなオオカミに少しずつ共感していきます。
自分が親や友人になったかのような感覚で、応援したくなる気持ちになっていきます。
「ブタを食べたい!」というオオカミの思いがどんどん読者を味方にします。最初はそんな可哀想にと思うかもしれませんが、後半にはきっと「1匹でも食べさせてあげたい!」と思う事でしょう!
落ちた時に頭を打って気を失ったぶたが一匹寝ているのですが、そのすきを狙ってオオカミは火をおこし、丸焼きにして食べようとします。目を覚まし逃げようとするぶたを、なんとか押さえつけようと襲いかかるのですが、足が遅いだけでなく、どうやら力もさほど無いようです。もみ合いになり、場所が悪かったのかオオカミのしっぽに、先程火をつけた薪が引火してしまい「あっちっち」と飛び跳ねました。その間にぶたは逃げてしまいました。マヌケなオオカミですね。『せっかくのチャンスだったのに残念だったね。』と一言声を掛けてあげたい気分です。それだけオオカミのキャラクターが好きになっている自分がいました。
「今度こそ!」とオオカミは新しい種をまく所から再挑戦します。めげずに頑張るオオカミを今後も応援し、ずっと見守ってあげたくなりました。