あれたべたい
甘くて、冷たくて、ふわっふわの『あれ』がなにか気になった人、スイーツ好きにおすすめです!
☆3つのおすすめポイント
- 水彩タッチで、ほんわかとした雰囲気。たくさんの美味しいスイーツが、ますます美味しそうです。
- お父さんと一緒に、『あれ』探しの街探検。いろんなお店や人たちに出会えて楽しめます。
- あれ、なんだっけ。思い出せないあの感じ。思い出せたときのスッキリ!が体験できます。
☆あらすじ
男の子がお父さんに、誕生日に食べたいものを聞かれます。「あれがいい!ばあばと、たべたの!」と答えますが、『あれ』の名前が出てきません。
さぁ、街に出て、『あれ』探しの探検です。
『○○みたいで、○○じゃない』。あれを探して、喫茶店めぐりをしますが、いっこうに『あれ』が見つかりません。
そんなとき街で、ばあばと出会います。そこで、あ!思い出しました。良かった〜。
最後は、みんなで『あれ』を食べながら、誕生日を祝いました。
☆際立った特徴
まず、表紙の絵も『あれ』のヒントです。
水彩画のような絵で、爽やかにふんわり描かれています。
『あれ』探しの途中で目にする、『あれ』以外のスイーツもとても美味しそうですよ。
絵自体の線も優しく、柔らかい雰囲気。だけれど、とっても細かいところまで描かれていて、人や街、スイーツへの愛を感じます。
お父さんと一緒に『あれ』探し。一緒に答えを想像しながら読み進めていくと、楽しさが広がります。
☆書店員の感想
3歳半の息子は、表紙の絵を見て「ドーナツ!これドーナツやね〜。ぼく食べた〜い」と言っていましたが、絵本の答えでは「ブー」です。けれど、見る人によっていろんなものに見えてくる絵だなと思いました。ちなみにわたしはゼリーだと思い、なんだか食べたくなりました。(笑)
絵本をめくると、まず表紙の裏に、15種類のスイーツの素描があります。色がついておらず、単純な輪郭で描きやすそうなので、子どもと一緒に真似して描くのも楽しく感じました。
そして、この中に『あれ』の正解はある?
男の子は、お父さんに誕生日に食べたいものを聞かれて「あれたべたい!」と答えます。「あれ」が思い出せないので、お父さんと『あれ』探しの街探検に出かけます。
お父さん、なんとも優しいですね。
『あれ』はとってもあま〜くてひんや〜り、そしてふわっふわ!一体なんでしょう。
探し回っているときに、まわりに目につくスイーツがなんとも美味しそう。
背景もひんやり感、ふんわり感がとても伝わってくる絵の具使いです。踊っているお父さんもチャーミングです。
二人で喫茶店に入って、『あれ』だと思うものを注文してみます。けれど、あれでもない、これでもない…。
お店の中は、とても細かく描かれています。3つのお店入ったのですが、どこも床や壁面のインテリア、店員さんやお客さんの表情、ファッションまで。同じところはひとつもなく、どこを見ても楽しめます。
女の人は可愛らしくお化粧されてますし、床の模様も店によってちがう。また、店ごとにそれぞれ全員が同じスイーツを食べているのですが、どのスイーツもデカイ!大きい!店の細かい素敵な絵に負けない存在感です。
どのお客さんも、美味しそうに、楽しそうに過ごしているようすが伝わってきます。この人たちはデートかな、どんな関係だろうなどと、つい妄想してしまいます。こんなすてきなお店があったら、ぜひ行ってみたいと思いました。
そして、結局『あれ』を見つけられなかった男の子とお父さんは、商店街に出かけます。
ここではさらに、個性的な店員さんとお客さんたちがいます。
こんな魚屋さんいそうだな〜という店員さんや、ひげまでぶどうみたいな形の果物屋さんまで…。酔っ払いのお父さんたちや、素敵なお姉さんたちも個性的です。
ブ〜ブ〜?と考えているとブーッとおならしている人や、バビべボブ!と考えていると「ボブ」と書かれた帽子をかぶっている外国人のお兄さんがいるなど、言葉にちなんだギャグも織り交ぜられていて、言葉遊びも楽しいです。
著者の枡野浩一さんは歌人なのだそうで、絵本の中にも一部(五七五七七)になっているところがあるそうです。ぜひ探してみてくだい。
そしてなんと街で、ばあばに出会いました!
救世主登場と言わんばかりに、ばあばのまわりには真っ赤なバラが神々しく描かれています。裏表紙にもあるのですが、ばあばの優しい笑顔。ホッと安心する表情で、ばあばが微笑みかけています。
ばあばを見て、『あれ』を思い出しました!
ページいっぱいに描かれる『あれ』。
男の子のやっと思い出した、スッキリ感。『あれ』大好き!
やっと食べられる嬉しさが、最大限に表現されています。
お誕生会では、家族みんなで『あれ』を囲んでお祝いです。
お誕生日用に、一人ずつ特大サイズです。僕のが一番大きいですね。男の子にとって、最高のお誕生会になりましたね。
私もよく子どもに”あれ”とってと言われるときがあります。
“あれ”ってなに?となるべく聞き、言わせようとするのですがなかなか出てこないときもあり、つい待ちきれずにこちらから言ってしまうことがあります。
この男の子のお父さんのように、一緒に街探検をして『あれ』を探す、というのは簡単なようで簡単じゃないなと思いました。
お父さんは実は知っていたのかな…?
なんて器の大きいお父さん!…と思ったりしながら、気長に待ってあげることを、見習いたいと思いました。
著者の枡野さんがあとがきで『人間のつくるすべての食べ物の中でいちばん〇〇(あれ)が好き』と書かれています。
この本には、枡野さんの『あれ』愛がたくさん詰まっているんだなぁ…と感じました。
また、絵を描かれた目黒雅也さんは、「人が集まっている喫茶店や酒場が好きです」と書かれています。
店内や商店街、お客さんなど、目黒さんの個性あふれる細かい描写に、とても惹かれました。
人も街もスイーツも、お父さんもぼくも、みんなの愛に溢れた作品です。
- あれたべたい
- 文:枡野浩一
- 絵:目黒雅也
- 出版社:あかね書房