ぼくはここにいる
少年の心に耳を傾けてください★「自閉症」という個性を持つ少年を描きます。
☆際立った特徴
- 1人の「自閉症」の男の子を描いている。
- 作者は、「自閉症」を理解し彼らの心や想いに寄り添って、描いている。
- 1人の少年を通して、”自閉症”という色をもつ子の、心を知ることが出来る。
- 苦手な事、得意な事、それぞれみんな違う。少し極端な部分があるだけ。
- 感受性が強い彼だからこそ見える景色。そして優しさ。
- 自閉症の特徴を紹介するえほんではない。
☆読み聞かせのポイント
- 彼の、そのままを感じ取ってほしい作品です。どう感じるかは皆さんそれぞれ。だけど、すこしでも自閉症など、発達障害をもつ子ども達について知り、出会った時、自然と彼らを理解し受け入れる事が自分にできたらいいな・・・と感じる作品だと思います。
- もしも、「どうしてなの?」と聞かれた時には、障害について知っている事については伝えてあげるのもよいですし、「こうすると、きっとこの子は楽なんだね。」「でも一人ぼっちだと、寂しい気持ちがあるのかもしれないね」など、保護者も感じたまま、話し合ってみると良いと思います。
☆あらすじ
君には聞こえる?
校庭で遊ぶみんなの楽しい声が。
でも、僕にはみんなの声が、大きな声に聞こえるんだ。ガーンガーンって響くんだよ。
だから、僕はみんなと広く距離をとりたい。向こうにはみんな、ここには僕だけ。
誰も気がついてくれないよね。こんなに遠くにいるんだから。
そよ風が僕の髪をなでてくれる。
葉っぱもクルクル回りながら遊びに来てくれた。
1枚の紙がふわりとどこからか僕の所に落ちてきた。
別に僕の所に来たかったわけじゃないんだよね。でも大丈夫だよ。僕がいるからね。
君を折ってみるね。飛行機の形に!
さあ、飛ばしてみるよ!いけ!僕も君に乗せておくれ!
どんどん遠くへ、雲まで高く、星が見える場所まで!
そしたら僕は大きな声で叫ぶよ。「僕はここにいるよって!」みんな気付いてくれるかな。
紙飛行機はそよ風に乗って、ふわっと空に上がると滑るように地面に降りてきた。
すると、誰かが気がついて、僕が折った紙飛行機を拾って持ってきてくれた。
紙飛行機は「ただいま!」と言って、「はい、どうぞ。」と女の子は僕に微笑み紙飛行機を届けてくれた。
ありがとう。ちゃんと僕が、ここにいるんだ。
☆書店員の感想
●最初に。
私は、本書を初めて読んだ時、とても主人公の彼の気持ちが伝わる素敵なお話だなと思いました。しかし、この絵本を読む皆さんに、「自閉症」という個性を持った子どもの話として読むのではなく、まずは本書を手に取った子ども達には先入観なく読んで欲しいと思いました。しかし、彼の個性的な部分が見えてくると、「どうしてなんだろう?」と途中できっと疑問を持つ部分が出てくると思います。
そしたら、「こういう事が苦手なんだね」「こうすると楽な気持ちになるんだね」と言葉を加えて伝えてあげると良いのではないかと思いました。
私も「自閉症」という個性を持った少年が、この時どう思っていたのか、出来る限り彼の気持ちに寄り添いながら、考えながら、紹介していきたいと思います。
●ぜひ、男の子の声に耳を傾けて下さい。そっと寄り添うようにね。
みんなが遊んでいる校庭で、ポツンと一人ぼっちの少年。本書を読んだ時、どうしてなの?と感じる子もきっといるでしょうね。実は彼はとても耳がいいんです。普通の声も大きく聞こえてしまうという脳の伝達部分の不具合で起こってしまうトラブルなのですが、離れた場所に居れば、みんなの声は普通に聞こえるので、安心して過ごすことが出来るようです。
さて、彼は一人で何をしているのでしょう。地面に正座で座っています。
私は、風と風に吹かれた木の葉と遊んでいるように感じました。ダンスするように風を体で感じ、「気持ちがいいよ」って話しかけているのかもしれません。
その後、また風に吹かれて飛んできたのは一枚の白い四角い紙。
まさか僕の所に来るなんて思いもしなかった。僕に気がついてくれたの?と、驚いています。でも「きっと君は違う場所に行く途中なんだよね?君が行きたかった所へ連れて行ってあげるよ」と彼はその紙を折り始めるのでした。
その言葉は本当に白い紙に対してだけだったのかな?本当は自分も・・・という気持ちが込められているのかもしれないと、私には聞こえました。
●紙を折って作ったのは紙飛行機。遠くへ向かって飛んでいきます。まるで、本当は僕もみんなと混ざりたいと思っている彼の願いが込められているようにも感じる場面。
紙飛行機は、いくら風に上手く乗せることが出来たとしても、そんなに何十メートルも遠くへ、ましてや雲までも、星までも飛ばすことは出来ません。
彼は折った紙飛行機を遠くへ向かって飛ばします。すると、不思議な事にどんどん高く遠くまで飛んでいきます。
実は、この紙飛行機を飛ばすシーン、急に彼の想像の中のような場面に変わります。
まるで彼が紙飛行機に乗って星空まで高く飛び、空の旅を楽しむかのような様子が描かれるのです。キラキラと輝く星達が、「僕に笑いかけてくれているみたいだ」と感じることができて、とても嬉しい気持ちになった彼は大きな声で叫ぶのですが・・・。その言葉は、「ぼくがここにいる!」なのです。その意味深な言葉の意味とは・・・?あなたはどう感じますか?
その後、飛行機はすーっと地面に向かって降りていきます。もうすぐ直陸するぞ!と思った時、校庭で遊んでいた子ども達が彼の乗った紙飛行機を「みーつけた!」と担ぎ、助走をつけて、もう一度、高く遠くまで飛ばしてくれたのです。
ここまでが恐らく、彼の想像の中。
この想像の中で、どうして彼は紙飛行機で空を飛んだのか。「僕がここにいる!」と叫んだのか。他の子供たちが「みーつけた!」と言ったのか。色んな事が謎だし、深いなと思いました。でも、もしかすると、彼の本当の気持ちが、この想像の中にギュッと詰まっているのかもしれないなと思ったのです。
校庭の隅に一人でいる僕だけど、僕はここにいるよ。誰か僕の存在に気がついて!と願っているのかもしれません。みんなの元に飛んでいきたい!と心で思っていたのかもしれません。
本当の紙飛行機はそよ風に乗って、しばらく飛ぶと滑るように校庭のどこかへ落ちて止まりました。すると、誰かがこの紙飛行機に気がついてくれて・・・。
少女が落ちた紙飛行機を持って来てくれました。彼の飛ばした紙飛行機に気がついてくれ少女。私はきっと、「僕はここにいるよ」と願いを込めて飛ばした飛行機を手に持った少女にきっと彼の想いが届いたのではないかと思いました。だから、「私もここにいるよ」と少女は彼に笑ったのだと感じました。
誰かに、自分と、自分の作った紙飛行機の存在に気がついてもらえた。そして、「僕もだ。僕がここにいるんだ」と改めて感じることが出来たのかもしれません。ここでこのお話が終わります。とっても素敵な横顔の笑顔が印象的なラストシーンをぜひご覧くださいね!
●「僕がここにいる」「僕はここにいる」と、それぞれ同じようで1つずつ違う表現を、主人公の彼の気持ちにとことん寄り添って、1番ピッタリな言葉を丁寧に選んで、日本語に訳されています。
彼らしさを表現するには、どんな言葉が適しているのだろうと、訳をされた酒木保さんはとても考え、言葉を選ばれたのではないかと思いました。
「僕が」「僕は」では、受け取る読者も感じ方が変わってきますよね。
「自閉症」の彼が感じている生きづらさや繊細な部分、人より優れた部分など、様々な個性を全てよく知っておられる酒木さんだからこその、言葉の選び方だなと思いました。
●実は分からないことだらけ。だからこそ、本書で彼の事について、「自閉症」について、もっと知りたいと思いました。
実は・・・。「自閉症」をあまりよく知らない私は、彼は結局どうしたかったのかな?と考えてしまうのです。
”聞こえ”の問題が無ければ、本当はみんなの側に行きたかったのかな?一人で遊んでいる僕に、誰か気がついてくれないかなと思っていたのかな?少女が紙飛行機を拾って届けてくれたお陰で、僕の存在がちゃんとここにあると確認できたのかな?
読んでも読んでも、私には疑問が沢山残りました。おそらく彼の中には、私にはまだ想像が出来ていない、違った感情もきっとあるのだろうなと思いました。
だからこそ、彼の個性について学び、彼ともっと向き合ってみたいと思いました。そしたら、もっと彼の気持ちに寄り添えますね。