おしっこちょっぴりもれたろう
おしっこがちょっぴりもれて困っている、ぼくの仲間はいるかな?もれたろう仲間を探しに冒険にでかけます。冒険で意外な発見にもつながる、ちょっと深い良いお話でもあります。
☆3つのおすすめポイント
- おしっこでちょっとパンツをぬらしちゃうぼく。もれたろう仲間は他にいないのかな…?パンツが乾くまで、ぼくは冒険にでかけました。おしっこもれたろうから、意外な発見・もれたろうの視点の成長につながります。
- 味のある絵、文章、人々の表情。シンプルな描線に、その人の気持ちや情景が伝わってきて、絵とお話の内容に引き込まれていきます。
- ぼくはおしっこちょっぴりもれたろうで困っているんだけど、みんなも困っていないのかな?おしっこちょっぴりもれたろうは、実はすぐそばにいるのかも…
☆あらすじ
ぼくは、おしっこの前かあとに、おしっこがちょっぴりもれて、パンツをぬらしてしまうことがあります。そして、お母さんに怒られます。
ぼくは、こう思います。「いいじゃないか。ちょっぴりなんだから。ズボンをはいたらわからないんだから。」
しばらくすると乾くことも知っているので、ぼくはお母さんに怒られないように、乾くまで冒険に出かけることにしました。
歩いていくと、いろいろな人とすれ違います。
みんな、表情に出さない・言わないだけで、もれたろうで困っているんじゃないかな?そう思ったぼくは、いろんな人に聞いてみることにしました。
はじめにおじさんに聞いてみました。怒って、もれたろうかどうかパンツは見せてくれませんでした。
おじさんにはちょっと怒られちゃったけど、今度は困った顔をしている女の子がいる。もれたろうかな?ちょっと聞いてみることにしました。
すると、服についている「タグ」がチクチクして困っているようでした。困っていたけど、もれたろうではありませんでした。
つぎに聞いた男の子は、靴下が直しても直してもずれてしまって気持ち悪くて困っていたようです。ほかにも3人聞いてみたけれど、みんな違うことで困っていました。
困った顔をしているからって、みんなもれたろうで悩んでいるわけじゃないんだなぁ…、と、僕は思います。
少し前は、近くにもれたろう仲間がいたぼく。一緒に遊んで、気持ちも分かち合って、いいお友達でした。しかし、そのお友達が引っ越すことになってしまい、もれたろう仲間がいなくなってしまいました。ぼくはなんでもれたろうなんだろう…。
ちょっぴりセンチメンタルな気分になったぼく。
家に帰って、おしっこをしました。けれどやっぱりもれたろうです。
またパンツがちょっぴりぬれてしまいました。
僕は、立ち直れたでしょうか…、もれたろう仲間は見つかるでしょうか…。
☆際立った特徴
ヨシタケシンスケさん独特の、一貫した子ども目線で物語が描かれています。
おしっこを、いつもちょっぴりもらしてしまう、ぼく。もらしたくてもらしているわけではないのに、お母さんに怒られるこの気持ちを、誰かと分かち合いたい。仲間がほしい。困っていることを共感したい。
そんな気持ちから町に出ます。そこから、ぼくの気持ちに少し変化が起きます。ぼくの冒険から小さな発見につながるお話は、楽しいだけではなく、大人にもちょっと考えさせられる、深い、いいお話でもあります。
おしっこちょっぴりもれたろうくんの、ちょっぴり成長のお話です。
☆書店員の感想
●おしっこでちょっとパンツをぬらしちゃうぼく。もれたろう仲間は他にいないのかな…?
ぼくは、おしっこをする前かあとに、ちょびっとパンツにおしっこがついてしまいます。
以前は近くにもれたろう仲間がいたけれど、遠くに引っ越してしまった。ぼくはもれたろう一人ぼっちなんじゃないか…そんな気持ちから、海の青さや広さにしんみり…寂しくなってきました。
とぼとぼ家に帰ると、またおしっこちょっぴりもれたろうになってしまったぼく。
そんなところにおじいちゃんがやってきました。
ぼく、いつまでもれたろうなんだろう…と相談してみました。
すると、「アハハハハ!」と笑い飛ばすおじいちゃん。
だいじょーぶ!だいじょーぶ!、と励ましてくれました。人生の大先輩にそう言ってもらえると安心しますね。
そして、じつはおじいちゃんももれたろう仲間ということが判明しました!
こんな身近に仲間がいたなんて、とっても嬉しいもれたろう!それを聞いていたお母さんはなんとも言えない表情をしていますが…。(笑)
裏表紙の裏の、仲良く手をつないでいる二人や、裏表紙では二人でパンツを覗いている姿がなんとも微笑ましいです。
おじいちゃんに悩みを軽く吹き飛ばしてもらい、元気になったぼく。神妙に悩んでいた悩みも、相談すると意外とあっさり心が軽くなることもあるかもしれませんね。
そういったことを学び、また、他の人達もそれぞれ何かに悩んでいるかもしれない…
そんな発見につながった、もれたろうの貴重な冒険です。
そういう視点を持てたら、他の人に寄り添う温かい気持ちが自然と芽生え、お互い支え合えるようになるかもしれないと感じました。
おしっこ漏れって子どもとお母さんにとっては身近な問題ですが、そのことから周囲の人に関心を持って考えられるきっかけになるお話になっているように思いました。
●味のある絵、文章、人々の表情。シンプルな描線に、その人の気持ちや情景が伝わってきて、絵とお話の内容に引き込まれていきます。
おしっこをちょっぴりもらしてしまうぼく。
パンツのシミ具合がなんともリアルです。そんなパンツを一生懸命覗き込んでいるぼくの姿や、最後のほうで頑張ってつま先立ちをしておしっこをしているぼくの後ろ姿など、子どもの特徴をよく掴んだ描写が可愛らしく感じます。
ぼくは冒険に出かけることにしましたが、出かけるぼくを見つめるおじいちゃん。もれたろうのようすを少し心配そうに見ているようにも感じます。
ぼくは冒険先で、いろんな人に出会います。
シンプルな描線で描かれた人物たちですが、同じ人は一人もいません。人それぞれ違う悩みを持っていることに重なって見えます。メガネをかけている人、買い物袋を持っている人、緑の服を着ている人… みんなそれぞれ違っていて、それが当たり前なんですね。だから、持っている悩みも人それぞれ。大なり小なりなにか困っていることや悩みを持って生活しているかもしれない… そんな気持ちにさせられます。
そして、ぼくの表情もそれぞれ違います。シンプルですが、もれたろうの真剣な表情や、あー、分かる、といったときの表情。楽しく遊んでいるときや寂しそうなようすが、ちょっとした眉毛の位置や手の高さ、肩を落とすようすなどから伝わってきます。
困っている表情の子どもたちも、髪型や衣服、仕草などが違っていて、なんとなくあの子に似ているな〜という気持ちになり、身近な存在に感じます。
文章も表紙から全部手書きになっています。ヨシタケさんの味のある温かい文字で、ぼくの場面ごとの気持ちに合った声が聞こえてくるようです。
●僕はおしっこちょっぴりもれたろうで困っているんだけど、みんなも困っていないのかな?おしっこちょっぴりもれたろうは実はすぐそばにいるのかも…
パンツにシミがついてしまうもれたろう。
おしっこの前は、ギリギリまで我慢してしまうと間に合わなくってちょろっと出てしまうし、ぼくは男の子なので、トイレのあとはピッピッとおしっこの「しずく」を落とさないとパンツにどうしてもついてしまいますね。(我が家では、トイレのあとのおしっこをきる動作を「ピッピッ」と言って、陰部の付け根か少し上を軽くツンツンとして落としています)
それが習慣になるまではなかなか難しいものです。
我が家はふたりとも男児なのですが、2年生の長男はトイレの間隔が長い割には心配性で、何かある前には必ずトイレ、寝る直前に必ずトイレ、というタイプでした。今はおしっこをしたあと、「ピッピッ」とおしっこをきるのが習慣になったようで、3歳の弟に教えてくれています。3歳の弟はおしっこが終わってスッキリすると忘れてしまうようで、「ピッピッした?」と聞くと、「ピッ!ピッ!」と言って元気よく最後の「しずく」を落としています。(笑)
親としては、「ピッピッ!してね」と毎回しつこいくらい言うようにしているのですが、子どもは内心どう思っているんだろう、おしっこでパンツ汚れちゃう問題は結構ナイーブな問題なので、毎度怒られると子供心に悲しさがこみ上げてくるものなのかもしれないのかな…と、この本を読んで思いました。子どもの目線でも、大人の目線でも楽しめ、考えさせられるようにも思いました。
おしっこちょっぴりもれたろうのおしっこについての悩みごとから、いろんな人との関わり、困りごとはもれたろうなことだけじゃない、人それぞれにあるということ、外からは見えないけれど、実はみんななにかに悩んでいるのかもしれない…という気づきをお子さんと一緒に得られるように感じました。
私も、人から悩みを相談されたとき、おじいちゃんみたいに、だいじょーぶ!だいじょーぶ!と励ましてあげられる人になりたい。困っていることに一緒に寄り添える、そんな関係を築いていけたらいいなと思いました。
- 作品名:おしっこちょっぴりもれたろう
- 著者名:ヨシタケシンスケ
- 出版社:PHP研究所