ねずみのよめいり

実は内容を忘れている大人も多い民話の一つ。大人にもピッタリ!方言で読むストーリーが、一味違った日本らしさやどこか懐かしさを感じさせます。

☆際立った特徴

  • 日本の昔話。
  • 「日本民話えほんシリーズ」10作の1つ。
  • セリフは(おそらく)東北なまりの話し方。
  • 一人娘を嫁に出したくない父親の気持ち。
  • どうにか縁談をまとめたい、おせっかいなおじさんねずみ。
  • おせっかいなおじさんネズミの行動が、なんとも驚きの結果に導く面白さ。

☆読み聞かせのポイント

  • 少し”なまり”のある文章に、読み手は最初は苦戦するかもしれませんが、そこは正確さよりも流れに身を任せて、読んでしまっても良いと思いました。少し間違っても流して読んでしまいましょう!
  • 嫁に出したくないお父さんネズミ。縁談話が進むにつれ、本当は自分のお婿さんはねずみがいいと感じている娘ネズミの感情が、少しずつ後半に見えてきます。親が決めた縁談に文句が言えない、そんな時代があったんだな・・・と感じます。
ねずみのよめいり 表紙

☆あらすじ

昔あるところに、父と母と娘の3人のネズミの家族がいました。

娘は調度お嫁に行くのに調度いい年頃で、ある日親戚のおじさんネズミが縁談話を持ってきました。隣村の村長の跡取りで、とても良い相手でした。

しかし父ネズミは「まだ早い!」「大事な娘をネズミなんかになれっか!」と断ろうとします。

おじさんネズミは、せっかくの縁談を父親が邪魔してどうするんだと話すと、父ネズミは

「世界で1番偉い人の所なら・・・お天道様かなぁ。」と思わず言い返しました。

もともと世話好きなおじさんネズミは、縁談をまとめるためにさっそくお天道様の元へ行き話しました。すると、

「とんでもない!私は雲どんが来れば隠れてしまう。1番偉いのは”雲どん”だ!」と言いました。

ならばと、おじさんネズミは雲の所へ行き話しました。すると、

「とんでもない!私は風が吹いたら頑張っても天にはいられなくなる。1番偉いのは”

風どん”だ。」と言いました。

縁談をどうしてもまとめたいおじさんネズミ、今度は風の所へ行き話をしました。すると、

「おいらがいくら風を吹かせても壁はビクともしない。壁こそ世界一じゃないだろうか。」と言いました。

そう言われればその通り。よーし、壁の所にも聞きに行ってこよう!とおじさんネズミは飛び出しました。

そして壁にも縁談の話をしました。すると、

「おいらがいくら頑張っても、ネズミにかじられたら穴が開く。世界で1番偉いのはネズミじゃなかろうか。」

おじさんネズミは『なるほど、なるほど。ごもっとも!』と納得。

帰ると、すぐに壁から言われた話を、3人家族に聞かせました。

そして、自分が始めに持ち掛けた隣村の村長の息子との縁談を進めてはどうかと、父母ネズミに話し、娘ネズミにも念を押すと・・・。

娘ネズミが小さな声で「ねずみで良かった。」とつぶやきました。

それを見て初めて、父ネズミはようやく心から娘を嫁にやる気になりました。

いよいよ嫁入りの日。

花嫁を乗せたかごと、嫁入り道具を運ぶ男衆。なんとも豪勢な花嫁行列だったんだそうですよ。

ねずみのよめいり 裏表紙

☆書店員の感想

まず、この昔話の面白さについて、お話したいと思います。

ネズミのお父さんは、どうしてもまだ娘を嫁に出したくなかったという所が肝になっています。というのも、嫁に出したくないから、「世界一偉い人の所へなら。お天道様とか・・・」と無理難題に近い条件をおせっかいなおじさんネズミに話すのです。

お節介なネズミのおじさんをおなどっていたお父さんネズミ。まさか本当に行動に移す等、きっと始めは思っていなかったのでしょう。しかし、おじさんはお天道様の元へ、次は雲の元へ、そして風の元へ・・・・と、次々紹介される自分より偉いと言う方の元へ行き、本当に縁談をまとめようと苦労します。

結局はなんとネズミが1番偉いという流れになり、縁談は無事にまとまるのですが・・・このお話の面白さは、お天道様や風などの自然な恵みよりも、とても小さなネズミが実は1番力があり偉いという事だという事です。

まさか自分達ネズミが偉かっただなんて、このおじさんの行動が無ければ、きっとネズミ達自身も、読者も、ずっと気がつかなかったでしょうね。

可愛い一人娘を、ただのねずみになんて嫁に出したくない!と思っている父親ネズミ。せめて嫁に出すなら【世界で1番偉い婿殿】のもとへ!

これは日本の昔々のお話です。この頃は自由な恋愛はほぼと言って良いほど無いもので、親が決めた相手と結婚するのが当たりまえの時代だったという事と、子供は親や目上の人に自分の気持ちや意見をなかなか言えない時代があったという事を念頭に、お話を読むと良いのではないかと思いました。

本書の中では本当は嫁に行く娘ネズミにスポットライトが当たるはずの物語であるはずが、娘にはほとんど注目せずに、物語が進んでいきます。仲人したがるおじさんネズミが、あっちこっちにと走り回って話をどんどん進めてくれるものですから、娘ネズミは実はそっちのけ・・・と言った感じです。

そんな時代があったんですね。しかし、娘ネズミはちゃんと意思を表現しています。親に口で言うのではなく、表情や立ち振る舞いから、気持ちを伝えようとしているのです。

あまり親たちは娘のそんな思いには気がついてやれていないようですが、最後はネズミのお婿さんになって喜ぶ様子がボソッと呟いた一言で、ちゃんと今までどう思って話を聞いていたのか、父ネズミにも私達読者にも、はっきりと伝わります。

その一言とは・・・。ぜひ、読者の皆さんには娘さんに注目して気持ちを読み取って欲しいと思います。健気で、とても可愛らしく、とても純粋な娘さんです。

縁談をまとめたい親類のおじさんネズミ。【世界で1番偉い】と思われる相手に、婿になってもらえないかと訪ねて回るのですが・・・。

おじさんネズミの行動力は素晴らしい物があります。まずお天道様に会いに行き、その次は雲、そして風、そして壁・・・と次から次に紹介されていく自分よりもっと優秀だと思う相手に、1人で会いに行きます。【世界一の婿】探しを率先してしてくれるのです。素晴らしいスタミナと根性。そして縁談をなんとかまとめてやろう!と頑張る姿には、おせっかいを通り越して、強い執念を感じさせます★

それにしてもお天道様から始まった【世界一偉い婿】探しは、なんと最終的にネズミが1番偉いという結末になりました・・・。

まさか、ネズミが1番とは!驚きの展開です。太陽を隠す雲よりも、雲を吹き飛ばす風よりも、風をビクともしない壁よりも、壁をかじって穴をあけるネズミが1番とは。

ここで私がぜひ注目してほしい場面が、穴の開いた壁を見せる壁の表情です。とっても嫌そうな顔をしながらおじさんネズミに穴を見せています。必見です!

さて、娘ネズミは、最初におじさんが話を持ち掛けた隣村の跡取りネズミの元へお嫁に行く事が決まりました。

ラストシーンで、その花嫁行列の様子が描かれています。

大切に育てられた娘ネズミの美しい花嫁姿と、大人のネズミが何人もで運ぶ嫁入り道具の数々・・・。なんて豪勢な・・・♬

  1. 作品名:日本民話えほん ねずみのよめいり
  2. 著者名:文 岩崎京子 絵 二俣英五郎
  3. 出版社:教育画劇
よっぴー
  • よっぴー
  • 書店員のよっぴーです。2人の男の子と、1人の女の子の母として、毎日育児奮闘中です。
    私は自分の子どもに沢山の愛情を子どもが嫌がる時が来るまで、沢山沢山注ごう。心をもしコップに例えるなら、そのコップが溢れて「もう大丈夫だよ!」となるまで続けようと思っています。それだけは大事にしている信念です。
    絵本を読むのもその一つです。
    大切にしている愛情を伝える方法の1つだと思っています。

    保育士・幼稚園教諭二種・介護福祉士です。
    他に、ベビーシッター・ベビーマッサージ・ベビー’sサインなどの資格も持っています。
    絵本の感想とともに私の育児経験、保育士・幼稚園教諭免許を持つ書店員としてのアドバイスなどをご紹介出来たらと思っています。