ねずみくんのチョッキ
ねずみくんがお母さんにステキなチョッキを編んでもらいました。すると、それを見た他の動物たちもつぎつぎ着たがって…。チョッキの行方が気になります!可愛い動物たちと繰り返しの文章で、小さなお子さんにもピッタリ!
☆3つのおすすめポイント
- ねずみくんの、お母さんに編んでもらったチョッキ。素敵な赤色で、動物たちがみんなつぎつぎと着ていきます。チョッキの行方はいかに…?
- シンプルな構造に、シンプルなお話の内容。それが読んでいる人に想像を膨らませるような働きかけをしているようです。小さなお子さんでも、すぐにお話の世界へ入って行けます。
- ねずみくんのチョッキは、昨年で誕生45周年!!親子3世代で読まれている絵本。ねずみくんの魅力に、世代を超えて愛されています。
☆あらすじ
ねずみくんが、お母さんに赤いチョッキを編んでもらいました。ねずみくんはすっかりお気に入り。
すると、アヒルくんがねずみくんを見て、うらやましくなりちょっと着せてよ、とお願いします。ねずみくんはアヒルくんにチョッキを貸してあげました。
チョッキを着たアヒルくん、ちょっときついけど…似合っているかな?
次はサルくんが貸してほしいとアヒルくんに頼みます。
着てみると…ちょっときつい…
けど、似合うかな?
今度はアシカがサルくんのもとにやってきました。そしてまた同じように着せてほしいと頼みます。
サルくんより大きいアシカ、チョッキはますますきつそうです。…似合って…いるかな?
アシカのつぎに、さらに大きなライオンがやってきました。チョッキが着たいとアシカにお願いします。なんとか着れたようですが、きゅっと体を起こすくらいきつそうです。
その次には、馬が着ました。ライオンが着ていたときよりちょっとチョッキが伸びてしまっていそうな… 表情も窮屈そうですが、着れたことで喜んでいるようです。
そして次はなんと、馬よりとっても大きなゾウがやってきました。チョッキを着てみたいそうです。
チョッキを着てみたゾウ。とってもきつそうな表情です。似合っているかは…どうでしょうか。
ゾウまでもチョッキを着ていたことを知らなかったねずみくん。ゾウが着ている姿を見てビックリ!!
すっかり伸びきったチョッキを後ろに引きずりながら、とぼとぼと歩いていくのでした…。
(最後に、その伸びたチョッキでゾウにブランコ遊びをしてもらっているねずみくん。チョッキの使い方は無限大!?)
☆際立った特徴
まず、表紙は白い背景にねずみくんが立っていて、周囲を四角く緑で囲まれています。本の中も緑が主で、白黒で描かれた動物と赤色のチョッキ、あとは緑、と使われているのは3色のみです。
繰り返しの文章に、少しづつ変化して登場してくる動物たち。分かりやすい展開の内容で、小さいお子さんから楽しむことができます。
「ねずみくん絵本」シリーズの第1作品目のこちらの本は、1974年発行のロングセラー本です。今も昔も大人気の絵本で、魅力がたっぷり詰まっています。
本の大きさは21.5×25㎝の少し縦長の長方形です。閉じた状態で、大人の閉じた両手が並べてすっぽり入るくらいの大きさです。
☆書店員の感想
●ねずみくんの、お母さんに編んでもらったチョッキ。素敵な赤色で、動物たちがみんなつぎつぎと着ていきます。チョッキの行方はいかに…?
ねずみくん、お母さんに赤いチョッキを買ってもらいました。ねずみくんも気に入っているようで、両手を腰にあて、ポーズをとっているように立っています。
気に入っているものって、みんなにお披露目したくなりますね。
ポーズをとっているように立っていると、アヒルくんに声をかけられます。ちょっと着せて、と頼まれて、少しならいいかな、ときっとねずみくんは思ったでしょうね。アヒルくんに貸してあげました。でもやはりねずみくんサイズ。ちょっと窮屈そうです。アヒルくんの顔もきつそうな、我慢しているように見えます。
サルくんやアシカも着てみますが、肩が上がって緊張しているような、体に変に力がかかっているような体勢になってしまっています。ライオンや馬、ゾウも、前足が地面につかず2本足になってしまっているので、動物もチョッキも相当耐えているのでしょうね。
チョッキの形がどんどん変わっていくので、最後どうなってしまうのか心配になってきます。
結局、最後にはびよ~んと伸びきってしまったねずみくんのチョッキ。
伸びたチョッキを引きずって、とぼとぼと歩く後ろ姿は、なんとも切なくなってきます。
大好きなお母さんに編んでもらった、大好きなチョッキが、いつの間にか全然違う形になってしまったものですからね…。けれどきっと、事情を話したら、お母さんもまた編んでくれるでしょう。見ていてこちらが編んであげたくなりました。(笑)
子どもって、どのサイズが自分に合うのかまだわからないときがあるのかもしれません。次男に、昨年着ていたお気に入りのTシャツをまた着たいと言われ、どう見ても窮屈そう…とこちらは思うのですが、本人はとにかく着たいので、「着せて!」の一点張りでした。もう着せてみるしかないと思い、きゅっきゅのTシャツを着せて、実感してもらったことがありました。着てみて動きにくいので、ようやく違うものを着ると納得し、その小さくなったTシャツはいとこにあげよう、ということになったことを思い出しました。
動物たちも、自分の体の大きさとチョッキの大きさの違いがまだ分からず、とにかく「着てみたい!」という気持ちが強かったのかもしれませんね。そう思って動物たちの表情を見てみると、ますます愛らしくも感じてきます。
●シンプルな構造に、シンプルなお話の内容。それが読んでいる人に想像を膨らませるような働きかけをしているようです。小さなお子さんでも、すぐにお話の世界へ入って行けます。
この本は、全体的に3色のみが使われて描かれています。表紙の内側も一面緑色。本棚からお子さんが自分で探すとき、緑の本!と印象づいて見つけやすそうです。
お話は、右が一面緑色の中に白い文字で文章が2、3行書かれています。左側には上・左右が1㎝ほど、下は約3㎝分緑色で縁どられていて、その中心は白く、その中にねずみくんやほかの動物たちが登場してきます。
そして、赤色はチョッキのみ。チョッキの赤色が上品に目立っていて、自然とチョッキの行方に目が行きます。
動物たちは鉛筆で描かれているような描写で、陰影がついて立体的です。ページごとに表情が変化し、右側の文章とリンクするようで、読みながら左の絵を見ると、動物同士のやりとりや動物自身のその時の気持ちがいろいろと想像できるような感じがします。
作者のインタビューから、ねずみくんの絵は、「シンプル」を大切に描かれた本だそうです。省けるものは省き、ねずみくんたちが描かれている絵の背景は真っ白。なにもない舞台に、動物たちが立っているようなようすをイメージされています。また、ねずみくんの大きさは2㎝6㎜とだいたい決まっていて、顔のドアップはなく、ねずみくんの大きさが変わらないからこそ、ほかの動物たちの大きさが比較できて楽しめる。また、表所を豊かにするためにねずみくんには白目が描かれていて、ひとつひとつの表情をお二人で研究して描かれているそうです。お二人のこだわりが細かいところにまで詰まっている絵本となっています。
文章も、チョッキを褒めて着せて、とお願いし、ちょっときついけど似合っているかな…?という繰り返しで続いていくので、小さいお子さんでも繰り返し読むことで内容を記憶しやすく、自分でもペラペラと本をめくって内容を思い出して想像し、楽しむことができるように思いました。
●ねずみくんのチョッキは、昨年で誕生45周年!!親子3世代で読まれている絵本。ねずみくんの魅力に、世代を超えて愛されています。
ねずみくんの絵本シリーズ、なんと昨年で誕生45周年だったのですね!親子3世代で楽しめる絵本って素敵です。
もうすぐ4歳の次男は、以前保育園から「ねずみくんのクリスマス」という本をプレゼントしていただき、とても気に入って読んでいます。そして、このねずみくんのチョッキの本を初めて目にしたとき、クリスマスの本で見ているなじみのキャラクターということもあってか、すぐに手に取り読み始めました。私にも、「読んで」と持ってきて、動物たちのやりとりを真剣に見て、お話を聞いていました。最後まで読んでどう感じたかは分かりませんが、最後の伸びたチョッキを見たときは、ビックリしたような反応で、少し残念そうにも感じました。けれど、さらに次のページでは、そのチョッキを使ってゾウにブランコ遊びをしてもらっている姿が描かれていて、「ブランコ楽しそう!」とにっこりとした表情で本を閉じていました。もしかしたら、ゾウも申し訳ない気持ちがあったのかな?と、子どもと一緒に読んだときに感じました。
ねずみくんのラストシーンでは、文章がありません。
感じることは人それぞれで、読む人にとってねずみくんの世界が十人十色あるんだろうな、そこがまた面白いところなのかなと思いました。作者のなかえさんも、インタビューの中で「オチのあるお話」を大切に書いている、と話されています。起承転結の内容で、オチが先に出て内容を考える、という風に進められているようです。この「ねずみくんのチョッキ」の「オチ」も、さすが秀逸です。ぜひ楽しみたいですね。
いろんな動物の表情もユニークで楽しく、シンプルですが絵がひとつひとつ絵画のようでじっと見つめていたくなる、そんな魅力も詰まっています。ぜひ、「ねずみくんの絵本」の世界を楽しんでみてください。
- 作品名:ねずみくんのチョッキ
- 著者名:作/なかえよしを 絵/上野紀子(お二人のインタビュー)
- 出版社:ポプラ社